今回は軟体動物について学んでいきたい。

どんなに身近な生き物であっても、いざその種や分類について考えると意外と知らないことは多のです。ひとつの分類群について改めて学ぶと、それぞれの生物種やグループについての知識が整理され、生物同士の関係についても理解が深まっていく。軟体動物に興味のあるやつもないやつも、ぜひ一度読んでみてくれ。

今回も、大学で分類学を中心に勉強していた現役講師のオノヅカユウを招いたぞ。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

軟体動物とは?

軟体動物(軟体動物門)は生物を分類するグループ(分類群)のひとつ。名前の通り、このグループに分類される動物は体の軟らかなものが基本ですが、それ以外にも以下のような共通点があります。

・左右対称な体(左右相称)

・体節がない

・体は大きく頭部・内臓・足に分けられる

・内臓は外套膜とよばれる膜に覆われている

・石灰質の殻、もしくは棘をもつ

・基本的に卵生

一部の種では例外もありますが、これらの特徴を頭の中に入れておけば、どんな生物が軟体動物に当てはまるかがわかるようになるでしょう。身近な例でいうと、貝やタコ、イカなどが含まれます。

生息環境はさまざま。その多くは海生ですが、淡水に生息するものや、カタツムリのように陸上に進出したものもいます。

軟体動物には背骨がない

軟体動物には背骨がありません。何をいまさら…とお思いになる方もいるでしょうが、これはとても重要なポイントです。

私たち人間を含む哺乳類や、鳥類、両生類、爬虫類、魚類には背骨がありますが、これら背骨をもつ動物はまとめて脊椎動物(せきついどうぶつ)とよばれます。逆に、背骨を持つ動物以外=背骨を持たない動物が無脊椎動物です。古い時代から、動物を分類する際には、まずは「脊椎動物か?無脊椎動物か?」が判断されてきました。

現在では研究が進み、脊椎動物と、それに近縁な尾索動物、頭索動物が脊索動物門という一つの大きなグループを構成するとみなされています。

そして、今回のテーマである軟体動物は、分類学上は軟体動物門というグループです。どちらも「門」という大きな生物のグループだということに注目してください。脊索動物門に人間や鳥や魚といった多様な生物が含まれるのと同じくらい、軟体動物門にもさまざまな姿かたちの種が含まれているのです。

image by Study-Z編集部

軟体動物はさらに8つの綱というグループに細分されます。それぞれのグループのポイントや違いについてみていきましょう。

\次のページで「腹足綱」を解説!/

腹足綱

軟体動物の中でもとくに多いのが腹足綱(ふくそくこう)に属する種です。いわゆる巻き貝の仲間をふくんでいます。殻から出た部分が広く足の役割を果たし、岩などにぺったりとお腹をつけたようにして生きていることから名前が付けられました。

食用海産物としておなじみのサザエやバイガイなどがイメージしやすいですね。浜辺に落ちていたり、お土産屋さんなどで売っているタカラガイもこの仲間です。その他、貝殻がかなり退化してしまっているウミウシやアメフラシ、流氷の間を泳ぐクリオネ(ハダカカメガイ)なども腹足綱にふくまれます。

image by iStockphoto

腹足綱の仲間はどんどん多様な環境に進出しました。淡水生活をするタニシや、陸上生活に適応したカタツムリの仲間など、バラエティに富んでいます。とはいえ、いずれも巻貝を体にもっている点はきちんと共通していますね。

二枚貝綱

image by iStockphoto

二枚の貝殻で体を包み込んでいる二枚貝の仲間二枚貝綱に入ります。身近なところでは、ハマグリやアサリ、ホタテガイなどが思い浮かぶでしょうか。種によっては、左右が非対称の殻になるものもあります。冬の味覚の代表・マガキなどが有名です。

多くの種は貝殻の間から細長く伸びる足をだし、これを使って砂地に潜ることができます。この足が斧のような形状をしていることから、二枚貝の仲間を斧足類とよぶこともあるんです。

掘足綱

貝殻を集めた経験のある人であれば、ツノガイという名前を聞いたことがあるでしょう。まるで哺乳類の角やゾウの牙のように、細長くのびた貝を持つツノガイの仲間が含まれている分類群が掘足綱(くっそくこう)です。

角のような形とはいっても、貝殻の中は軟体動物の身体が入るため空洞であり、両端には蓋もなく開いています。淡水生の種は知られておらず、いずれも海に生息。浅瀬から深い海まで世界中の海に広く分布しています。

多板綱

image by iStockphoto

楕円形の扁平な体の背面に8枚の殻を並べた生き物が多板綱の仲間です。潮間帯でみられるヒザラガイなどの種がこのグループにはいります。岩礁にぴったりとくっついているダンゴムシのような生き物、皆さんも見たことがあるのではないでしょうか?

動きも遅くあまり目立たない生物ですが、日本だけでも100種ほどが知られており、地方独特の名前でよばれることもあるようです。

単板綱

単板綱は1枚の板状の殻をもった生物のグループ。比較的平らな貝をもつカサガイに似ています。1952年までは古生代の地層から見つかる化石のみが知られており、すでに絶滅したグループだと考えられていましたが、深海調査が進んだ結果、現在も生き延びている種が見つかりました。

現生している種は十数種ほどまで確認されましたが、深海にすんでいるものばかりであることから標本の個体数も限られ、研究があまり進んでいません。まだ謎が多く残されている分類群です。

\次のページで「頭足綱」を解説!/

頭足綱

動きが緩慢、もしくはほとんど移動することができないような貝類が多い軟体動物ですが、タコやイカのふくまれる頭足綱は例外です。筋肉や神経系が発達し、貝殻を退化させることで機敏な運動が可能になった、特殊化した軟体動物として知られています。足が多くに分かれているもの特徴的ですね。

image by iStockphoto

カイダコなど、一度失った貝殻を復活させた種もいます。また、しっかりとした貝殻をもち、古くから形がほとんど変わっていないとされる「生きた化石」のオウムガイの類も、タコやイカに近いとされ、頭足綱内の一グループとみなされているのが現状です。

溝腹綱

溝腹綱(こうそくこう)に分類される軟体動物は、貝殻が完全に退化し、ミミズやナマコのようなひも状~棒状の体をもちます。体の側面に長く溝があることが名前の由来です。

溝腹綱の仲間は、ほとんどの人にとって初めて聞くような名前のものばかりでしょう。サンゴノヒモやナミホソヒモ、カセミミズといった生き物たちです。

尾腔綱

ケハダノウミヒモとよばれる軟体動物の仲間がつくるグループが尾腔綱(びこうこう)です。かつてはサンゴノヒモのような溝腹綱と一つのグループになると考えられていましたが、現在は独立した綱であるとみなされています。

この尾腔綱も貝殻らしい貝殻をもちません。しかしながら、その体の表面は石灰質のとげでおおわれています。数mmから数wp_程度の大きさのものが多く、まだ研究もそれほど進んでいないため、これから生態が詳しく調べられていくことが期待されている分類群です。

軟体動物のようで軟体動物ではないものたち

以下にあげる生物は、軟体動物とよく間違われますが、分類のうえでは大きく異なるグループに属しているものたちです。中学校の理科などではテストに出ることもありますので、しっかり暗記しましょう。

\次のページで「ミミズ」を解説!/

ミミズ

ミミズは柔らかでうねうねと動く軟かいからだをもってはいますが、分類上は軟体動物ではなく「環形動物」というグループに含まれています。体をよく見ると、ミミズにはたくさんの節(体節)がありますよね。軟体動物に体節はありません。

イソギンチャク

海辺でよくみかけるイソギンチャクの類も、骨がなく軟らかな体をしています。しかしながら、イソギンチャクは「刺胞動物」です。刺胞動物の特徴は、体が左右相称ではなく、放射相称になっているところ。グニャグニャととらえどころのない体を持つクラゲも、イソギンチャクと同じ「刺胞動物」の仲間です。

ヒトデ

やはり背骨がなく、海底をゆっくりと移動するヒトデ。体の硬さは種によって様々ですが、軟体動物に間違われることがあります。ヒトデは「棘皮動物」に分類される生き物です。棘皮動物のからだも放射相称が基本。ウニやナマコ、ウミユリなども棘皮動物ですよ。

意外と身近な軟体動物たち

海に生きる種の多い軟体動物ですが、カタツムリやナメクジの仲間は日常生活でも比較的よく目にします。また、魚屋さんやスーパーの海産物売り場を見ればかなりの種類の軟体動物がいることに気づくはずです。普段からいろいろな生き物について意識する癖をつけると、生物学がどんどん得意になっていきますよ。

" /> 【生物】「軟体動物」ってなんだ?現役講師がさくっとわかりやすく解説! – Study-Z
理科生物生物の分類・進化

【生物】「軟体動物」ってなんだ?現役講師がさくっとわかりやすく解説!

今回は軟体動物について学んでいきたい。

どんなに身近な生き物であっても、いざその種や分類について考えると意外と知らないことは多のです。ひとつの分類群について改めて学ぶと、それぞれの生物種やグループについての知識が整理され、生物同士の関係についても理解が深まっていく。軟体動物に興味のあるやつもないやつも、ぜひ一度読んでみてくれ。

今回も、大学で分類学を中心に勉強していた現役講師のオノヅカユウを招いたぞ。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

軟体動物とは?

軟体動物(軟体動物門)は生物を分類するグループ(分類群)のひとつ。名前の通り、このグループに分類される動物は体の軟らかなものが基本ですが、それ以外にも以下のような共通点があります。

・左右対称な体(左右相称)

・体節がない

・体は大きく頭部・内臓・足に分けられる

・内臓は外套膜とよばれる膜に覆われている

・石灰質の殻、もしくは棘をもつ

・基本的に卵生

一部の種では例外もありますが、これらの特徴を頭の中に入れておけば、どんな生物が軟体動物に当てはまるかがわかるようになるでしょう。身近な例でいうと、貝やタコ、イカなどが含まれます。

生息環境はさまざま。その多くは海生ですが、淡水に生息するものや、カタツムリのように陸上に進出したものもいます。

軟体動物には背骨がない

軟体動物には背骨がありません。何をいまさら…とお思いになる方もいるでしょうが、これはとても重要なポイントです。

私たち人間を含む哺乳類や、鳥類、両生類、爬虫類、魚類には背骨がありますが、これら背骨をもつ動物はまとめて脊椎動物(せきついどうぶつ)とよばれます。逆に、背骨を持つ動物以外=背骨を持たない動物が無脊椎動物です。古い時代から、動物を分類する際には、まずは「脊椎動物か?無脊椎動物か?」が判断されてきました。

現在では研究が進み、脊椎動物と、それに近縁な尾索動物、頭索動物が脊索動物門という一つの大きなグループを構成するとみなされています。

そして、今回のテーマである軟体動物は、分類学上は軟体動物門というグループです。どちらも「門」という大きな生物のグループだということに注目してください。脊索動物門に人間や鳥や魚といった多様な生物が含まれるのと同じくらい、軟体動物門にもさまざまな姿かたちの種が含まれているのです。

image by Study-Z編集部

軟体動物はさらに8つの綱というグループに細分されます。それぞれのグループのポイントや違いについてみていきましょう。

\次のページで「腹足綱」を解説!/

次のページを読む
1 2 3 4
Share: