今回は省エネルギー化を実現する上で重要となる「エネルギー変換効率」について解説していきます。

人類が直面しているエネルギー問題の改善策の1つに省エネルギー化がある。省エネルギー化とは、今よりも少ないエネルギーを使って、今と同じだけの利益やサービスを得られるようにすることです。この方法を考えるためには、「エネルギー変換効率」という概念を理解する必要がある。ぜひとも、この記事を読んで「エネルギー変換効率」の考え方を学んでくれ。

エネルギー工学、環境工学を専攻している理系学生ライターの通りすがりのぺんぎん船長と一緒に解説していきます。

ライター/通りすがりのペンギン船長

現役理系大学生。エネルギー工学、環境工学を専攻している。これらの学問への興味は人一倍強い。中学時代に、DIYで太陽光発電装置を製作するために、独学で電気工事士第二種という資格を取得してしまうほど熱い思いがある。

エネルギー変換効率とは?

エネルギー変換効率とは?

image by Study-Z編集部

私たち人間は、エネルギーを使いやすい形に変えて使用することがよくあります。例えば、火力発電所では、化学エネルギーを有する化石燃料から電気エネルギーを取り出しますね。また、モーターを駆動させることで、電気エネルギーを運動エネルギーに変えるといったこともできます。このように、あるエネルギーから別の種類のエネルギーを取り出し、利用することをエネルギー変換というのです。

エネルギー変換を行う際、元となるエネルギーのすべてを、取り出すエネルギーに変えることはできません。つまり、必ずエネルギーをロスしてしまうのです。これをエネルギー損失といいます。そして、元となるエネルギーに対して、どの程度のエネルギーを取り出せたかを表す指標をエネルギー変換効率というのです。エネルギー変換効率は、(取り出すエネルギー)/(元のエネルギー)または1-(エネルギー損失)/(元のエネルギー)で求められますよ

この記事では、熱機関と太陽電池を例に挙げ、エネルギー変換効率を決定づける要因やエネルギー変換効率を向上させる方法について考えます。そして、エネルギー変換効率と省エネの関係性についても解説していきますね。

熱機関のエネルギー変換効率

熱機関は、熱エネルギーを運動エネルギーに変換する装置です。熱機関の例として、自動車のエンジン、火力発電所のタービンなどが挙げられます。前半は、この熱機関のエネルギー変換効率について考えてみましょう。

必ず熱は捨てないといけない?

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化石燃料などを燃やして発生する熱エネルギーのすべてを、運動エネルギーに変化させることができる熱機関は存在するのでしょうか?この問いの正解は、「存在しない」です。実はこのことを説明している法則があります。熱力学第二法則です。熱力学第二法則は様々な表現方法がありますが、「ただ1つの熱源から正の熱を受け取り、動作し続ける熱機関は存在しない。」というオストワルドの表現がこれに該当します。

では、熱機関を動かし続けるためにはどうすればよいか考えましょう。熱機関を連続的に動作させるためには、高温の熱源から熱エネルギーを受け取り、その一部を低温の熱源に受け渡す必要があります。つまり、熱機関は泣く泣く熱エネルギーの一部を、運動エネルギーに変換する際に捨てなければならないのです。

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カルノーサイクルについて考えよう!

カルノーサイクルについて考えよう!

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先ほど、熱機関は熱エネルギーのすべてを運動エネルギーに変換できないことを学びました。ここでは、実際に熱機関はどの程度のエネルギー変換効率であるのかを考えましょう。

熱力学第二法則に基づくと、理論上、エネルギー変換効率が最大になるのはカルノーサイクルという熱機関だとされています。カルノーサイクルのエネルギー変換効率は、1-(低熱源の絶対温度)/(高熱源の絶対温度)という式で求めることができますよ。ここでは、低熱源とは熱機関を設置する場所の環境、高熱源とは燃料などを燃やす熱機関の内部だと考えてください。

この式を見れば、高熱源の絶対温度をかぎりなく大きくすると、エネルギー変換効率は100%に近づくように思われます。しかし、実際は熱機関を構成する材料の耐久性の問題から、高熱源の温度を上げることには限界があるのです。そのため、現実的な数字で考えると85%程度が限界となります。

エネルギー変換効率が小さくなるその他の理由

先ほど、カルノーサイクルを用いる場合、エネルギー変換効率を85%程度までであれば、引き上げることができると述べました。しかし、現実に用いられるガソリン機関では30%程度、ディーゼル機関では45%程度のエネルギー変換効率となっているのです。

このようになってしまう理由は、熱機関の仕組みをカルノーサイクルのものに近づけることが困難であること、熱機関の駆動部分で摩擦が生じることなどが理由にあげられます。さらに、火力発電などでは、熱機関のエネルギー変換効率に加えて、発電機のエネルギー変換効率も考える必要がありますね。発電機の回転部分には摩擦力が生じるのです。このような事例から、エネルギー変換効率を向上させることがいかに大変であるかが分かります。

太陽電池の変換効率

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後半は、太陽電池のエネルギー変換効率について考えてみましょう。太陽電池は、太陽からやってくる光エネルギーを電気エネルギーに変換する装置です。ソーラーパネルと呼ばれる場合もありますね。住宅の屋根などにも設置できて、最も身近な再生可能エネルギーを利用する装置だと言えます。

温度の影響

太陽電池は、温度が高くなりすぎると、エネルギー変換効率が低下するのです。太陽電池は、光エネルギーを受け取り、電子をより高いエネルギー準位に移動させ電流を生み出します。このとき、電子はバンドギャップ(禁制帯)という領域を乗り越える必要があるのです。温度が高くなると、この領域が広くなり、電子がこれを乗り越えるためにより多くの光エネルギーを受け取らなければならないようになります

光には、紫外線、可視光線、赤外線などがありますね。この中で赤外線は、太陽電池表面の温度を高くするはたらきが強くなります。つまり、赤外線は太陽電池に悪い影響を与えうるといことです。太陽電池は、光がたくさん当たれば、エネルギー変換効率が向上するというわけではないのですね。

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エネルギー変換効率と省エネの関係性

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最後に、エネルギー変換効率と省エネの関係性について紹介しますね。日本国内のエネルギーフローを考えたとき、エネルギー変換効率が最も小さいのは、電力部門となっています。先ほど述べたように、火力発電所などのタービンでの、エネルギー損失が非常に大きいからです。

このことから、家庭内で同じエネルギーの都市ガスと電気を節約した場合、節電のほうが効果が高いことがわかりますね。このように、同じエネルギーを節約した場合でも、エネルギー変換効率の違いにより、省エネ効果が異なってくるのです。

エネルギー変換効率を向上させるための努力

省エネルギー化は、私たちが直面しているエネルギー問題の解決を達成するために行われていることの1つです。省エネルギー化を進める上で、エネルギー変換効率を向上させるということは避けて通ることはできません。この記事で取り上げた熱機関をはじめとして、様々な分野で、研究や技術開発が進められています。

そのため、このような話題は、ニュースや新聞で頻繁に取り上げられていますね。この記事の内容を豆知識として覚えておくと、きっと取り上げられている内容を、深く理解することができますよ!

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エネルギー変換効率は何で決まる?理系学生ライターが徹底わかりやすく解説!

今回は省エネルギー化を実現する上で重要となる「エネルギー変換効率」について解説していきます。

人類が直面しているエネルギー問題の改善策の1つに省エネルギー化がある。省エネルギー化とは、今よりも少ないエネルギーを使って、今と同じだけの利益やサービスを得られるようにすることです。この方法を考えるためには、「エネルギー変換効率」という概念を理解する必要がある。ぜひとも、この記事を読んで「エネルギー変換効率」の考え方を学んでくれ。

エネルギー工学、環境工学を専攻している理系学生ライターの通りすがりのぺんぎん船長と一緒に解説していきます。

ライター/通りすがりのペンギン船長

現役理系大学生。エネルギー工学、環境工学を専攻している。これらの学問への興味は人一倍強い。中学時代に、DIYで太陽光発電装置を製作するために、独学で電気工事士第二種という資格を取得してしまうほど熱い思いがある。

エネルギー変換効率とは?

エネルギー変換効率とは?

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私たち人間は、エネルギーを使いやすい形に変えて使用することがよくあります。例えば、火力発電所では、化学エネルギーを有する化石燃料から電気エネルギーを取り出しますね。また、モーターを駆動させることで、電気エネルギーを運動エネルギーに変えるといったこともできます。このように、あるエネルギーから別の種類のエネルギーを取り出し、利用することをエネルギー変換というのです。

エネルギー変換を行う際、元となるエネルギーのすべてを、取り出すエネルギーに変えることはできません。つまり、必ずエネルギーをロスしてしまうのです。これをエネルギー損失といいます。そして、元となるエネルギーに対して、どの程度のエネルギーを取り出せたかを表す指標をエネルギー変換効率というのです。エネルギー変換効率は、(取り出すエネルギー)/(元のエネルギー)または1-(エネルギー損失)/(元のエネルギー)で求められますよ

この記事では、熱機関と太陽電池を例に挙げ、エネルギー変換効率を決定づける要因やエネルギー変換効率を向上させる方法について考えます。そして、エネルギー変換効率と省エネの関係性についても解説していきますね。

熱機関のエネルギー変換効率

熱機関は、熱エネルギーを運動エネルギーに変換する装置です。熱機関の例として、自動車のエンジン、火力発電所のタービンなどが挙げられます。前半は、この熱機関のエネルギー変換効率について考えてみましょう。

必ず熱は捨てないといけない?

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化石燃料などを燃やして発生する熱エネルギーのすべてを、運動エネルギーに変化させることができる熱機関は存在するのでしょうか?この問いの正解は、「存在しない」です。実はこのことを説明している法則があります。熱力学第二法則です。熱力学第二法則は様々な表現方法がありますが、「ただ1つの熱源から正の熱を受け取り、動作し続ける熱機関は存在しない。」というオストワルドの表現がこれに該当します。

では、熱機関を動かし続けるためにはどうすればよいか考えましょう。熱機関を連続的に動作させるためには、高温の熱源から熱エネルギーを受け取り、その一部を低温の熱源に受け渡す必要があります。つまり、熱機関は泣く泣く熱エネルギーの一部を、運動エネルギーに変換する際に捨てなければならないのです。

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