今回は「有機物」について勉強していこう。

有機物とはかなり広い範囲のグループで、人によって想像するものは全く違うはずです。
それだけ幅広く可能性に溢れた分野だということです。

そんな有機物について、大学で有機化学を専攻している学生ライターずんだもちと一緒に解説していきます。

ライター/ずんだもち

化学系の研究室で日々研究を重ねる理系学生。1日の半分以上の時間を化学実験に使う化学徒の鑑。受験生のときは化学が得意でなかったからこそ、化学を苦手とする人の立場に立ってわかりやすく解説する。

1.有機物とは?

image by iStockphoto

有機物(=有機化合物)とは「炭素を含む化合物の総称」「炭素を骨格とした化合物の総称」などと定義されます。ただし、どの物質までを有機物に含めるかどうかは明確な基準があるわけではありません。デジタル大辞泉の説明でも「炭素を含む化合物の総称。ただし、二酸化炭素・炭酸塩などの簡単な炭素化合物は習慣で無機物(=無機化合物)として扱うため含めない。」と書かれているようにその定義は曖昧です。別の言い方をするならば、どこまでが有機物かを分類することに意味がないとも言えます。定義の話はここまでにして、有機物とはどんなものなのかをさっそく見ていきましょう。

2.身近な有機物

有機物といってもその種類は無数にありますので、ここからは私たちの身近にある有機物をいくつか紹介し、その構造式を具体的に見ていきながら、有機物にどんな可能性があるのかを解説していきます。

2-1.アルコール

アルコールは非常に身近な有機物の1つです。

一般にお酒に含まれているアルコールは「エタノール」という化合物で、以下のような構造をしています。

image by Study-Z編集部

ここでの重要なポイントは「炭素には手が4本ある」こと。化学を勉強している人なら当たり前だと思う人もいるかもしれませんが、この事実はとても大切で、有機物の幅を広げている大きな理由の1つになります。

地球上に数多く存在する原子の中で手が4本というのは最大です。手が3本の原子であればそれだけ結合できる原子の数が減ってしまい構造の自由度も減ってしまいます。手が4本あるからこそより多くの構造をとることができ、同じ有機物というグループの中でも多様な性質を示すのですね。

\次のページで「2-2.油」を解説!/

2-2.油

毎日誰もが摂取するような非常に身近な有機物である油。以下に示すのは、植物油などに多く含まれている有機物の1つであるオレイン酸です。非常に細長い構造をしていますね。

image by Study-Z編集部

このように同じ種類の原子で多数繋がって骨格を形成できる元素はかなり限られています。その中でも手が4本ある炭素は多様な骨格を形成できるのです。

有機物は構成原子のほとんが炭素と水素であるためにこの構造式のように炭素原子と水素原子を省略して書きます。この折れ線の頂点部分全てに炭素が存在し、炭素の手が余っている部分が水素原子です。慣れないうちは見にくいかもしれませんが、非常に便利な書き方ですのでゆっくり慣れていきましょう。例えば、先ほどのエタノールですと以下のような構造になります。

image by Study-Z編集部

オレイン酸の構造から、この有機物は炭素以外の原子が少なく全体として極性が低いことがわかります。これが油と水が混ざらない理由です。

もう少し詳しく説明しましょう。異なる化合物同士の混ざりやすさは、その2つの化合物の極性の近さに大きく影響されます。極性の大きいものどうし、小さいもの同士はよく混ざるのです。オレイン酸の極性の高い部位は分子の末端のヒドロキシ基(-OH)だけですので、極性が非常に高い水とは混ざりません。

このことを知っておくと、有機物の構造を見るだけでその物質が水に溶けるかどうかをある程度見分けることができます。

2-3.ビタミンC

有機物の溶けやすさが分かる例を見てみましょう。下の構造はビタミンCのものになります。

image by Study-Z編集部

この構造式を見ると、極性の高い-OHが複数あることが分かると思います。したがって、ビタミンCは極性が高く水に溶けやすいビタミン(水溶性ビタミン)であることが判別できますね。

ところで、みなさんは「ほうれん草を茹ですぎるとビタミンが抜けてしまう」ということはご存知でしょうか。実はほうれん草に含まれているのはビタミンCなのです。このように有機物の構造から様々な知識を結びつけることができます。

\次のページで「2-4.セルロース」を解説!/

2-4.セルロース

image by iStockphoto

下の構造式を持つ「セルロース」は身近な化合物で私たちも毎日目にしています。どこに存在する有機物かご存知でしょうか?

 

image by Study-Z編集部

セルロースは地球上に最も多く存在する炭化水素として有名で、植物を構成する有機物になります。構造式から分かるようにセルロースは繊維状の有機物で、これが束になって植物を構成するために非常に丈夫です。そのため、セルロースは水にも熱水にも有機溶媒にも溶けません。また、植物を構成するためセルロースは紙にも多く含まれています。

セルロースは繊維状の有機物でした。実はこのセルロースと同じ成分で結合の仕方が違うだけの有機物が存在します。この分子はアミロースと呼ばれ、結合の仕方が違うために繊維状にはならず螺旋状です。アミロースはお米などに含まれる弾力のある成分で、セルロースのような丈夫さは持っていません。単なる結合の仕方の違いで大きく性質が異なるのですね。

 

2-5.薬

image by iStockphoto

ここまでいろいろな有機物を見てきましたが、最後に1つもっと複雑なものを見てみましょう。

下に示すのはダルババンシンと呼ばれる有機物です。

image by Study-Z編集部

身近な有機物ではないですが、これは黄色ブドウ球菌に感染した際の薬として利用されています。構造自体も大きく非常に複雑な分子ですね。

有機物にはこのように骨格を比較的自由に操り様々な構造を合成できる可能性の広さがあります。こんなにも複雑な物質を作り出せる現代の化学も素晴らしいものがありますね。

3.有機物の特徴

今までは具体的な有機物に焦点を当ててきました。「アルコール」「油」「薬」などを紹介してきましたが、他にも「タンパク質」「プラスチック」「DNA」など、大まかな種類ごとに具体例を見ていってもキリがありません。では逆に、有機物に共通する特徴はないのでしょうか。

有機物は化合物ごとに多様な特徴を持っていて、共通する特徴はほとんどありません。しかし、1つ挙げるとすれば「燃焼させることで二酸化炭素を発生する」ということです。すべての有機物に共通する特徴とは言い切れませんが、有機物を燃やして炭素同士の結合を切っていけば、最終的には二酸化炭素になることが多い。ぜひ身近な例で考えてみてください。

 

有機物の可能性は無限大

有機物は共通の特徴を見つけ出すのが難しいほど多様な性質を持つグループであることがお分かりいただけたかと思います。

日頃から口にする食品や身に着ける服など、どんな有機物が使われているのか是非調べてみてください。

" /> 有機物とは?その可能性の広さを有機化学系学生ライターがわかりやすく解説 – Study-Z
化学有機化合物理科

有機物とは?その可能性の広さを有機化学系学生ライターがわかりやすく解説

今回は「有機物」について勉強していこう。

有機物とはかなり広い範囲のグループで、人によって想像するものは全く違うはずです。
それだけ幅広く可能性に溢れた分野だということです。

そんな有機物について、大学で有機化学を専攻している学生ライターずんだもちと一緒に解説していきます。

ライター/ずんだもち

化学系の研究室で日々研究を重ねる理系学生。1日の半分以上の時間を化学実験に使う化学徒の鑑。受験生のときは化学が得意でなかったからこそ、化学を苦手とする人の立場に立ってわかりやすく解説する。

1.有機物とは?

image by iStockphoto

有機物(=有機化合物)とは「炭素を含む化合物の総称」「炭素を骨格とした化合物の総称」などと定義されます。ただし、どの物質までを有機物に含めるかどうかは明確な基準があるわけではありません。デジタル大辞泉の説明でも「炭素を含む化合物の総称。ただし、二酸化炭素・炭酸塩などの簡単な炭素化合物は習慣で無機物(=無機化合物)として扱うため含めない。」と書かれているようにその定義は曖昧です。別の言い方をするならば、どこまでが有機物かを分類することに意味がないとも言えます。定義の話はここまでにして、有機物とはどんなものなのかをさっそく見ていきましょう。

2.身近な有機物

有機物といってもその種類は無数にありますので、ここからは私たちの身近にある有機物をいくつか紹介し、その構造式を具体的に見ていきながら、有機物にどんな可能性があるのかを解説していきます。

2-1.アルコール

アルコールは非常に身近な有機物の1つです。

一般にお酒に含まれているアルコールは「エタノール」という化合物で、以下のような構造をしています。

image by Study-Z編集部

ここでの重要なポイントは「炭素には手が4本ある」こと。化学を勉強している人なら当たり前だと思う人もいるかもしれませんが、この事実はとても大切で、有機物の幅を広げている大きな理由の1つになります。

地球上に数多く存在する原子の中で手が4本というのは最大です。手が3本の原子であればそれだけ結合できる原子の数が減ってしまい構造の自由度も減ってしまいます。手が4本あるからこそより多くの構造をとることができ、同じ有機物というグループの中でも多様な性質を示すのですね。

\次のページで「2-2.油」を解説!/

次のページを読む
1 2 3
Share: