みなさんは「依然(いぜん)」という言葉を使ったことがありますか?「依然と(して)」「依然たる」などの形でよく用いられています。変化がないことについての表現ですが、プラス評価なのかマイナス評価なのか、使い方に迷ってしまうこともあります。また、近い意味を持つ語にはどのようなものがあるのかも、気になるところです。今回の記事では、「依然」の意味と使い方、さらに類義語について、新聞記者歴29年の筆者が詳しく解説していきます。

「依然」とは

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同じ読み方をする「以前」「已然」といった熟語もありますが、「依然」とは意味が違うので気を付けましょう。

それでは、以下に「依然」の意味と使い方について説明していきます。

「依然」の意味

「依然」は主に「~と(して)」「~たる」と続き、「ある状態が変化せずに、元のまま続くさま」を言い表します。また、他の語と連結して「旧態依然」「依然健在」「依然不明」といった、副詞として使うことも可能です。

ポイントは2つあります。

・過去から現在までの間に変化があるかどうかについての表現。これから先・未来のことは含まない。

・プラスの評価(変化がなくてよい場合)、マイナスの評価(変化がなくて悪い場合)いずれのケースでも使用可能。ただし、どちらの含みがあるかは、前後関係から判断する必要がある。

また、「変化がない」というと動かない状態が思い浮かびますが、継続しているという意味合いのケースもあります。たとえば「火山活動が依然活発だ」という言い方もできるので、あくまで「状態」に変化があるかどうかで判断すべきでしょう。

「依然」の由来

「依然」を構成する漢字2文字を、それぞれ見ていきましょう。

「依」は「寄り添う。よりかかる」というところから「拠り所(よりどころ)にする」の意味も持ちます。また「然」にも数多くの意味がありますが、この場合は「そのようであること」の意でしょう。

以上を考え合わせると「依然」は「頼りにし、拠り所としてきたものがそのままの状態であること」です。

古い用例では、中国漢代の書物『大戴礼記(だたいらいき)』に「故今之人称五帝三王者、依然若猶存者、其法誠徳、其徳誠厚」とあります。大意は「五帝三王と称される伝説的な君主が、もし今もなお生きているのであれば~」といった感じでしょうか。

熟語の成り立ちやこちらの用例を見ると、「依然」はポジティブな印象を与える言葉として用いられていたようですね。

以上を踏まえて「依然」の使い方を例文で見ていきましょう。

「故郷に帰れば、依然として自然に満ちた穏やかな風景があり、気持ちが落ち着くのを感じる」

「濃い霧が発生しており、正午近くなった現在でも依然として視程が基準をクリアできない」

「ギリギリの交渉が続いていたが、依然たるまま進展が見られなかった」

「どれだけ革新的なアイデアを出しても、システム関連が旧態依然としていては、まるで役には立てられない」

「少しずつ顧客は増える傾向にあったものの、依然厳しい経済状況に変わりはなかった」

「依然」は「~と(して)」「~たる」という形で用いると、プラス評価とマイナス評価、いずれの意味合いも持ち得ます。ただし、もはや慣用句となっている「旧態依然」では、一般的にはほぼマイナス評価の意味になるでしょう。「時の流れに対応することをせず、古い時代のまま進歩がない状態。時代遅れ」といったことを意味します。

類義語

次に、「依然」の類義語について見ていきます。

以前の状態から変化がないことを表現する言葉の中から、比較的「依然」と意味が近い「尚(なお)も」「相(あい)変わらず」「代わり映え(かわりばえ)しない」「未だ(いまだ)に」を紹介しましょう。

尚(なお)も

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「尚も」は「その上まだ。それでもまだ」という意味で用います。どちらかと言うとマイナス評価を帯びるケースが多いようです。

「尚」は本来、漢文の言い回しの中でよく使われていた言葉で、たとえば「AすらなおB。況(いわん)やCおや」(AでさえBなのだから、ましてCがBではないことがあろうか)といった句形のなかで使われていました。

「尚も」がマイナス評価で用いられることが多いのは、もしかするとこのころの名残なのかもしれません。

例文:

「環境保護への意識は高まりを見せつつあったが、尚も森林破壊は続いていた」

「降り始めから半日が経過したが、雨は尚も激しく降り注いだ」

\次のページで「相(あい)変わらず」を解説!/

相(あい)変わらず

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「相変わらず」には「前と変わらず。いつもの通り」という意味があります。プラス評価、マイナス評価ともに用いることが可能です。

「変わらず」の上についている「相」に特別深い意味はなく、語調を整えたりするだけの役割しかありません。ところが、「相も変わらず」とすると、「変化がない様子を批判する」ニュアンスになるので気を付けましょう。

例文:

「近ごろ朝晩めっきり冷え込んで参りましたが、皆様お変わりありませんでしょうか。こちらは皆相変わらず元気にしております」

「肉体美への情熱は相変わらずで、日々トレーニングに励んでいる」

「柵を設けたりと問題の解決策を講じてみたが、相変わらず害獣被害はなくならない」

代わり映え(かわりばえ)しない

「代わり映え」だけだと「変わったことによって前よりもよくなること」を意味しますが、ほとんどの場合は打消しの語とともに、逆に意味で用いられます。

つまり、「代わり映えしない」という言い回しで「少しは変化があったのかもしれないが、あまりよくなった部分が感じられない」という様子の表現として多く使われており、「代わり映えしたねえ」などの形でプラスの意味では用いられることは、ほぼありません。

例文:

「内閣改造が行われたものの、これまで同様の代わり映えしない閣僚人事には失望感が漂う」

「寮の代わり映えしない食事には、微妙に嫌気がさしてきている」

未だ(いまだ)に

「未だに」とは「(下に打消しの語をともなって)現在でもなお実現していない」ということを指します。「過去に始まった事柄が今も継続中なのは困ったことだ」といったニュアンスで用いられる語です。

漢文では「未~」として「いまだ~せず」と訓読します。打消しをともなう用法は、こうしたことの名残かもしれません。「未熟(みじゅく)」「未遂(みすい)」「未知(みち)」などの熟語を思い浮かべると、分かりやすいのではないでしょうか。

例文:

「未だにWindowsXPを使っている企業があるなんて、理解に苦しむよ」

「自動プログラムでは未だに対応できない箇所があり、一部は手作業で行わなくてはならない」

そのままはよいこと?

以上、「依然」の意味と使い方、さらに類義語について、詳しく解説してきました。

この言葉は「ある状態が変化せずに、元のまま続くさま」を言い表します。過去から現在に至るまでの間に、状態が変化することなく継続している様子についての表現で、プラス評価とマイナス評価、いずれの意味でも使うことが可能です。しかし、かつてはポジティブな言葉として使われていました。

また近い意味の語には「尚も」「相変わらず」「代わり映えしない」「未だに」などがあります。いずれの語も、ある状態が継続しているさまを言い表すときに用いますが、それぞれ意味・ニュアンスの違いがあるので、シチュエーションによって使い分けることができるでしょう。

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言葉の意味

「依然」の意味と使い方・例文・類義語は?新聞記者歴29年の筆者がわかりやすく解説!

みなさんは「依然(いぜん)」という言葉を使ったことがありますか?「依然と(して)」「依然たる」などの形でよく用いられています。変化がないことについての表現ですが、プラス評価なのかマイナス評価なのか、使い方に迷ってしまうこともあります。また、近い意味を持つ語にはどのようなものがあるのかも、気になるところです。今回の記事では、「依然」の意味と使い方、さらに類義語について、新聞記者歴29年の筆者が詳しく解説していきます。

「依然」とは

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同じ読み方をする「以前」「已然」といった熟語もありますが、「依然」とは意味が違うので気を付けましょう。

それでは、以下に「依然」の意味と使い方について説明していきます。

「依然」の意味

「依然」は主に「~と(して)」「~たる」と続き、「ある状態が変化せずに、元のまま続くさま」を言い表します。また、他の語と連結して「旧態依然」「依然健在」「依然不明」といった、副詞として使うことも可能です。

ポイントは2つあります。

・過去から現在までの間に変化があるかどうかについての表現。これから先・未来のことは含まない。

・プラスの評価(変化がなくてよい場合)、マイナスの評価(変化がなくて悪い場合)いずれのケースでも使用可能。ただし、どちらの含みがあるかは、前後関係から判断する必要がある。

また、「変化がない」というと動かない状態が思い浮かびますが、継続しているという意味合いのケースもあります。たとえば「火山活動が依然活発だ」という言い方もできるので、あくまで「状態」に変化があるかどうかで判断すべきでしょう。

「依然」の由来

「依然」を構成する漢字2文字を、それぞれ見ていきましょう。

「依」は「寄り添う。よりかかる」というところから「拠り所(よりどころ)にする」の意味も持ちます。また「然」にも数多くの意味がありますが、この場合は「そのようであること」の意でしょう。

以上を考え合わせると「依然」は「頼りにし、拠り所としてきたものがそのままの状態であること」です。

古い用例では、中国漢代の書物『大戴礼記(だたいらいき)』に「故今之人称五帝三王者、依然若猶存者、其法誠徳、其徳誠厚」とあります。大意は「五帝三王と称される伝説的な君主が、もし今もなお生きているのであれば~」といった感じでしょうか。

熟語の成り立ちやこちらの用例を見ると、「依然」はポジティブな印象を与える言葉として用いられていたようですね。

以上を踏まえて「依然」の使い方を例文で見ていきましょう。

「故郷に帰れば、依然として自然に満ちた穏やかな風景があり、気持ちが落ち着くのを感じる」

「濃い霧が発生しており、正午近くなった現在でも依然として視程が基準をクリアできない」

「ギリギリの交渉が続いていたが、依然たるまま進展が見られなかった」

「どれだけ革新的なアイデアを出しても、システム関連が旧態依然としていては、まるで役には立てられない」

「少しずつ顧客は増える傾向にあったものの、依然厳しい経済状況に変わりはなかった」

「依然」は「~と(して)」「~たる」という形で用いると、プラス評価とマイナス評価、いずれの意味合いも持ち得ます。ただし、もはや慣用句となっている「旧態依然」では、一般的にはほぼマイナス評価の意味になるでしょう。「時の流れに対応することをせず、古い時代のまま進歩がない状態。時代遅れ」といったことを意味します。

類義語

次に、「依然」の類義語について見ていきます。

以前の状態から変化がないことを表現する言葉の中から、比較的「依然」と意味が近い「尚(なお)も」「相(あい)変わらず」「代わり映え(かわりばえ)しない」「未だ(いまだ)に」を紹介しましょう。

尚(なお)も

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「尚も」は「その上まだ。それでもまだ」という意味で用います。どちらかと言うとマイナス評価を帯びるケースが多いようです。

「尚」は本来、漢文の言い回しの中でよく使われていた言葉で、たとえば「AすらなおB。況(いわん)やCおや」(AでさえBなのだから、ましてCがBではないことがあろうか)といった句形のなかで使われていました。

「尚も」がマイナス評価で用いられることが多いのは、もしかするとこのころの名残なのかもしれません。

例文:

「環境保護への意識は高まりを見せつつあったが、尚も森林破壊は続いていた」

「降り始めから半日が経過したが、雨は尚も激しく降り注いだ」

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