「裏腹」の意味と使い方・例文・類義語は?新聞記者歴29年の筆者がわかりやすく解説!
「裏腹」とは
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「裏腹」という言葉を見て「腹の裏側だから背中のこと?」と思う方も、もしかするとおられるかもしれません。実は、実際の体のことではなく、主に心に関わることについて使われる言葉です。
それでは、以下に「裏腹」の意味と使い方について説明していきます。
「裏腹」の意味
「裏腹」には以下の2通りの意味があります。
1.隣接していること。背中合わせ。
2.相反すること。あべこべ。
「1.背中合わせ」の意味では、物事や状態について言い表します。「遠く離れているように見えて、実は非常に近いものだ」という含みを持って用いる語です。
一方、「2.相反すること」の意味では、主に人の心・気持ち・考え方などが関係してきます。「心と言葉」「気持ちと体」「言動と行動」といったケースが想定できるでしょう。また、「Aと裏腹なB」とした場合、通常はAよりもBのほうがネガティブな内容であることの方が多いようです。
「裏腹」の由来
「裏腹」を「裏(うら)」「腹(はら)」に分解して見ていきましょう。
「裏」はもちろん「表とは逆のほう」を意味しますが、本来は「衣」が入っていることから推測できる通り「衣服の裏地」を指したようです。また「腹」は「生き物のおなか」を指すことから「ものの中心部分」の意味を持つ漢字でした。
日本では「うら」「はら」ともに、さらに意味が展開していきます。『万葉集』には「うらも無く我が行く道に青柳の張りて立てればもの思ひ出つも」とあり、この場合の「うら」は「心・思い」といったことの意味です。「はら」にも「心の中・心の中で考えていること」の意味が加わり、「腹を探る」や「腹黒い」などの表現が生まれました。
以上を考えると「裏(うら)」「腹(はら)」はどちらも人の内側にある心の中と密接な関わりがあることが分かります。さらに表には現れないことで、「公にはできない」といったようなネガティブなイメージにつながったのではないでしょうか。
以上を踏まえて、「裏腹」の使い方を例文で見ていきましょう。
「入念な準備とトレーニングを積み重ねていても、消防士という仕事は常に危険と裏腹である」
「激しい口調とは裏腹に、心は意外なほど冷静だった」
「締め切りが迫り焦る気持ちとは裏腹に、作業は一向に進まない」
「今回の彼の行動は納得しがたい。先日言っていたこととはまるで裏腹なことをやっている」
「いつも悪口ばかり言っているのに、いざというときには手を貸してあげてる。言うこととやることは裏腹ってことさ」
類義語
次に、「裏腹」の類義語について見ていきます。
「1.背中合わせ」の意味に近い語として「裏表(うらおもて)」「ジキルとハイド」を、「2.相反すること」の意味に近い語では「あべこべ」を紹介しましょう。
裏表(うらおもて)
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「裏表」にはシンプルに物の「裏側と表側」を指す意味から展開して「表面に現れた部分と隠れた内実」あるいは「かげひなた」の意味も持ちます。
一つのもの(人)が持つ2つの面(表と裏)の存在を言い表しており、漢字の順番を入れ替えて「表裏」としてもほぼ同じ意味の語です。また「表」には「たてまえ」の意もあるので、「たてまえに隠れた見えない部分がある(要するに信用できない)」と示唆する語でもあります。
例文:
「彼は裏表のないさっぱりとした人柄で周囲から好かれている」
「誰しも多少なり裏表があるものだ。あの愛想のよい笑顔を信用するのは危険だね」
ジキルとハイド
イギリスの作家ロバート・ルイス・スティーブンソンによる小説『ジキル博士とハイド氏』(1886年)の登場人物から、現在では慣用句として一般的に使われています。
本来は、二重人格を持つジキル博士の、隠れた裏の人格がハイド氏だったというストーリー。このことから「一つのものの二面性(善と悪)」を言い表す言葉になりました。
例文:
「普段大人しい男が、ハンドルを握ったとたんに乱暴になる。まるでジキルとハイドだな」
「禁煙を宣言したのはよいが、自分の中にジキルとハイドがあり、常に葛藤を繰り広げている」
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