みなさんは「しかるに」という言葉を聞いたことがありますか?少し古い表現になるので、日常会話の中では馴染みが薄いかもしれません。しかし、古典や漢文などをお好きな方は、比較的よく目にする語でしょう。接続詞として使われている言葉ですが、具体的にどのような使い方をするのか、最近の方はよく分からないかもしれません。また、他に近い意味の語にはどのようなものがあるのかも、気になるところです。今回の記事では「しかるに」の意味と使い方、また類義語にあたる言葉について、新聞記者歴29年の筆者が詳しく解説していきます。

「しかるに」とは

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現在では日常「しかるに」を使うことは少ないかと思われますが、夏目漱石の著作などには比較的頻繁に使われています。意味や成り立ちを覚えておくと、歴史ある著作などに接した場合に便利なのではないでしょうか。

では、「しかるに」の意味、使い方について見ていきましょう。

「しかるに」の意味

「しかるに」には細かく見ると、以下のような意味があります。

1.ところが。しかしながら。逆接で後ろにつなげるときに用いる。

2.さて。ところで。話題を転換するときに用いる。

3.そうであるからには。前の内容を確定的に受けて後ろにつなげるときに用いる。

接続詞なので、連続した文章のうち、後段の最初に用いられることが多いでしょう。ただし、意味的には少し複雑で、逆接のケース、順接のケース、さらにどちらでもなく単に話題を変えるという3つのパターンがあり、前後関係から判断する必要があります。

漢字の「然」

「しかるに」とは漢字を使って表記すると「然るに」となります。

漢字の「然」は接続詞としてみるとやはり、逆接と順接、2通りの意味を持つようです。

逆接の古い用例では中国漢代の歴史書『史記(しき)』高祖本紀に「周勃重厚少文、然安劉氏者必勃也、可令為太尉」とあります。大意は「周勃は重厚な人物で文才はもうひとつ。しかし、劉氏を安泰にするのは間違いなく周勃だから、太尉とするべきだろう」といった感じでしょうか。

順接の用例は同じく中国の思想集『論衡(ろんこう)』講瑞篇にあり「当一年、二年之時、未知孔子聖也。三年之後、然乃知之」と書かれています。孔子と弟子の子貢のことについて言っており、大意は「(子貢は)1、2年では孔子が聖人だということを知らなかった。3年ののちに、そうしてようやく聖人だと分かった」です。

逆接なのか順接なのかの判断は、文章の意味をよく考えないと難しいようですね。

「しかるに」の成り立ち

一方、日本語の「しかるに」も古くから使われていましたが、成り立ちは意外に複雑です。

「(直前に述べたことを指し)そのように」の意味の副詞「しか」と動詞の「あり」の複合語「しかあり」が変化して自動詞の「しかり」となり、「そのとおりである」ということを指しました。

その後、動詞「しかり」の連体形に接続助詞の「に」(順接・逆接どちらの意でも使う)が付いて「しかるに」。これによって「そうであるから/そうであるのに」の意味となりました。成り立ちが似た接続詞としては「しかるを」「しかれども」などがあります。

以上を踏まえて「しかるに」の使い方を例文で見ていきましょう。

「希望の仕事を続けたい思いはある。しかるにペット関連の専門職となるとなかなか簡単には見つからない」

「大きな期待を背負って進学したはず。しかるに大学での勉強などまるで眼中にない」

「独特の価値観で数々の伝説を持つ男だ。しかるに理解しがたい行動だと言われても仕方がない」

「もちろん情報の確認は重要だろう。しかるにあなたの英語の能力はどれほどなのだろうか」

類義語

次に、「しかるに」の類義語を紹介しましょう。

「しかるに」の逆接的な意味に通じる古風な表現から「されど」「ところがどっこい」、現代でも日常使われる「にもかかわらず」について説明します。

されど

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「されど」は漢字を使うと「然れど」と表記することからも分かるように、「しかるに」とは近い関係にあります。ただしこちらは「そうではあるけれども」という、逆接の意味だけで用いられる言葉です。

平安時代の随筆『枕草子(まくらのそうし)』には「されど、つひに負け聞えさせ給はず成にけり(大意:しかしそれでも負けないままになった)」とあります。

「しかるに」は漢文系の古典に多く用いられ、比較的男性的な表現だったに対し、「されど」は和文系で用いられていたようです。

例文:

「されどわが身を顧みれば、かくのごとく未だ一本立ちできずにいる」

「豪雨災害の後、急遽舟を調達させた。されど今となっては、遅きに失した感がなくはない」

\次のページで「ところがどっこい」を解説!/

ところがどっこい

「それなのに」という意味の逆説の接続詞「ところが」に、勢いをつける「どっこい」をプラスした俗語的な表現で、くだけた場面での会話の中で用いられます。

「どっこい」は「何処(どこ)へ?」から変化した語だという説があり、本来は「そうはさせないぞ」という含みのある掛け声だったようです。「ところが」に続けることで、前段の内容をひっくり返す意味合いがより強まるのではないでしょうか。

例文:

「失恋のショックで落ち込んでいるかと思ったが、ところがどっこい、もう次の男を物色してるんだよ」

「偏屈な上司にみんな言いなりになっていたんだが、ところがどっこい、そうはさせじと立ち上がったのが彼だ」

にもかかわらず

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「にもかかわらず」も「直前の内容と反対の内容を後ろにつなげる逆接の意味」で用いることができます。

漢字を使って表記すると「にも拘わらず・にも係わらず」となり、直前の事柄に「関係なく」というところから「それなのに」を意味する語です。こちらは現代の会話・文章でも比較的違和感なく使うことができるのではないでしょうか。

例文:

「ダイエットを宣言していたにもかかわらず、やはり甘いものと見ると買わずにはいられないようだ」

「大雨という悪条件にもかかわらず、彼は白熱したライブパフォーマンスを披露した」

古風な言い回しで

以上、「しかるに」の意味と使い方、また類義語にあたる言葉について詳しく解説してきました。

この言葉は古風な言い回しをするときの接続詞で「直前の内容と相反する内容を述べる場合(逆接)」「直前の内容を受けて後ろにつなげる場合(順接)」「単に話題を変える場合」と3パターンの用法があります。前後関係から、いずれの意味なのかを判断する必要があるでしょう。

また、逆接の機能を持つ接続詞は他にもあり、「しかるに」のように古風な表現としては「されど」「ところがどっこい」、現代でも比較的使いやすい表現としては「にもかかわらず」が挙げられます。

それぞれ違ったニュアンスや適した場面がある言葉なので、シチュエーションを考えて選択するとよいのではないでしょうか。

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言葉の意味

「しかるに」の意味と使い方・例文・類義語は?新聞記者歴29年の筆者がわかりやすく解説!

みなさんは「しかるに」という言葉を聞いたことがありますか?少し古い表現になるので、日常会話の中では馴染みが薄いかもしれません。しかし、古典や漢文などをお好きな方は、比較的よく目にする語でしょう。接続詞として使われている言葉ですが、具体的にどのような使い方をするのか、最近の方はよく分からないかもしれません。また、他に近い意味の語にはどのようなものがあるのかも、気になるところです。今回の記事では「しかるに」の意味と使い方、また類義語にあたる言葉について、新聞記者歴29年の筆者が詳しく解説していきます。

「しかるに」とは

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現在では日常「しかるに」を使うことは少ないかと思われますが、夏目漱石の著作などには比較的頻繁に使われています。意味や成り立ちを覚えておくと、歴史ある著作などに接した場合に便利なのではないでしょうか。

では、「しかるに」の意味、使い方について見ていきましょう。

「しかるに」の意味

「しかるに」には細かく見ると、以下のような意味があります。

1.ところが。しかしながら。逆接で後ろにつなげるときに用いる。

2.さて。ところで。話題を転換するときに用いる。

3.そうであるからには。前の内容を確定的に受けて後ろにつなげるときに用いる。

接続詞なので、連続した文章のうち、後段の最初に用いられることが多いでしょう。ただし、意味的には少し複雑で、逆接のケース、順接のケース、さらにどちらでもなく単に話題を変えるという3つのパターンがあり、前後関係から判断する必要があります。

漢字の「然」

「しかるに」とは漢字を使って表記すると「然るに」となります。

漢字の「然」は接続詞としてみるとやはり、逆接と順接、2通りの意味を持つようです。

逆接の古い用例では中国漢代の歴史書『史記(しき)』高祖本紀に「周勃重厚少文、然安劉氏者必勃也、可令為太尉」とあります。大意は「周勃は重厚な人物で文才はもうひとつ。しかし、劉氏を安泰にするのは間違いなく周勃だから、太尉とするべきだろう」といった感じでしょうか。

順接の用例は同じく中国の思想集『論衡(ろんこう)』講瑞篇にあり「当一年、二年之時、未知孔子聖也。三年之後、然乃知之」と書かれています。孔子と弟子の子貢のことについて言っており、大意は「(子貢は)1、2年では孔子が聖人だということを知らなかった。3年ののちに、そうしてようやく聖人だと分かった」です。

逆接なのか順接なのかの判断は、文章の意味をよく考えないと難しいようですね。

「しかるに」の成り立ち

一方、日本語の「しかるに」も古くから使われていましたが、成り立ちは意外に複雑です。

「(直前に述べたことを指し)そのように」の意味の副詞「しか」と動詞の「あり」の複合語「しかあり」が変化して自動詞の「しかり」となり、「そのとおりである」ということを指しました。

その後、動詞「しかり」の連体形に接続助詞の「に」(順接・逆接どちらの意でも使う)が付いて「しかるに」。これによって「そうであるから/そうであるのに」の意味となりました。成り立ちが似た接続詞としては「しかるを」「しかれども」などがあります。

以上を踏まえて「しかるに」の使い方を例文で見ていきましょう。

「希望の仕事を続けたい思いはある。しかるにペット関連の専門職となるとなかなか簡単には見つからない」

「大きな期待を背負って進学したはず。しかるに大学での勉強などまるで眼中にない」

「独特の価値観で数々の伝説を持つ男だ。しかるに理解しがたい行動だと言われても仕方がない」

「もちろん情報の確認は重要だろう。しかるにあなたの英語の能力はどれほどなのだろうか」

類義語

次に、「しかるに」の類義語を紹介しましょう。

「しかるに」の逆接的な意味に通じる古風な表現から「されど」「ところがどっこい」、現代でも日常使われる「にもかかわらず」について説明します。

されど

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「されど」は漢字を使うと「然れど」と表記することからも分かるように、「しかるに」とは近い関係にあります。ただしこちらは「そうではあるけれども」という、逆接の意味だけで用いられる言葉です。

平安時代の随筆『枕草子(まくらのそうし)』には「されど、つひに負け聞えさせ給はず成にけり(大意:しかしそれでも負けないままになった)」とあります。

「しかるに」は漢文系の古典に多く用いられ、比較的男性的な表現だったに対し、「されど」は和文系で用いられていたようです。

例文:

「されどわが身を顧みれば、かくのごとく未だ一本立ちできずにいる」

「豪雨災害の後、急遽舟を調達させた。されど今となっては、遅きに失した感がなくはない」

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