「面影」の意味と使い方・例文・類義語は?新聞記者歴29年の筆者がわかりやすく解説!
「面影」とは
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「面影」と聞くと、どこか懐かしさやノスタルジックな感情を刺激される言葉ですね。過去の記憶に関係する語で、意外に古くから使われていました。
それでは、以下に「面影」の意味と使い方について説明していきましょう。
「面影」の意味
「面影」には細かく見ると、2通りの意味があります。
1.記憶に残っている姿や状態。
2.そこから思い起こされる姿。
「記憶」とは「過去に経験した事柄を忘れずにおぼえていること。また、その内容」を指します。つまり「1.記憶に残っている姿」の意味では、頭の中に記憶として残っているイメージのこと。「2.そこから思い起こされる姿」の意味では、実際に見たものが過去の記憶と結びついて呼び起こされるイメージのことを表す言葉です。
主に人に対して用いられますが、情景・景色などについても使用することができます。また、「面影」が懐かしさを伴うことも多く、否定的なニュアンスはあまり持たないようです。
「面影」の語源
「面影」を構成する漢字2文字を、それぞれ見ていきましょう。
「面」はストレートに「おもて」つまり顔を意味します。一方、「影」は本来「何かに光が当たり、遮られる部分にできる暗い部分」のこと。このことから次第に「(鏡や水面などに)映し出される姿」をも指すようになりました。つまり、本物・実物とは別の、何かに映し出された像のことです。
以上を合わせると「面影」は本来「何か(鏡・水面・心)に映し出された顔つきや姿」を意味していました。
平安時代に書かれた紫式部(むらさきしきぶ)『源氏物語(げんじものがたり)』にはすでに用例があり、「桐壺」の「人よりはことなりしけはひかたちの、面影につと添ひておぼさるるにも、闇の現にはなほ劣りけり」という一節がそれです。
ここでは「(桐壺更衣の歌や姿が)あまりにも素晴らしかったので、その幻影が寄り添うように思われたが」という内容なので、「心の中に映った姿」と解釈してよいかと思います。
以上を踏まえて、使い方を例文で見ていきましょう。
「久々の帰省で偶然幼馴染に再会した時、幼いころの面影が残った彼女に懐かしさを覚えた」
「再開発によって昔の建物は跡形もなくなり、すっかり当時の面影はなくなっていた」
「武家屋敷が多く現存しており、江戸時代の面影をとどめている数少ない地域の一つだ」
「彼の面影をずっと胸に抱き続けていたのだから、気が付かないわけがないだろう」
類義語
「記憶」をキーワードとする表現は、「面影」のほかにもいくつか存在します。その中から比較的近いイメージを持った「偲ぶ(しのぶ)」「名残(なごり)」「追憶(ついおく)」「デジャビュ」を紹介しましょう。
偲ぶ(しのぶ)
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「偲ぶ」は「遠く離れたものや物事を感慨深く思い起こす。遠く思いをはせて懐かしがる」という意味で用いられます。
古くは「しのふ」と清音だったそうで、意味も「見てほめる。めでる」でした。『万葉集(まんようしゅう)』にある額田王(ぬかたのおおきみ)の歌にも「秋山の木の葉を見ては黄葉をば取りてそしのふ」とあり、「美しく黄葉した木の葉を手に取ってめでる」という形で使われています。
いつの間にか記憶に関して用いる表現になりましたが、現在でも過去を美化するニュアンスを持ちつつ「偲ぶ」と言うことが多いようです。亡くなった方を懐かしんで「偲ぶ」と言うのも、こうしたことからだと思われます。
例文:
「宿場町の雰囲気を残した街並みから、当時の人々の暮しが偲ばれる」
「彼の手には今でも火傷の跡が残っており、若い頃の苦労が偲ばれる」
名残(なごり)
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「名残」は送り仮名をつけて「名残り」と表記されることもあります。意味は「物事が過ぎ去った後になお、その影響やそれを思わせる気配が残っていること。またその影響や気配。余情」あるいは「去るものや別れていくものを、思いきれない気持ちが残ること」です。
実は、名前が残ることとの関連はなく、本来は「余波(なごり=なみののこり)」だったのではないかと言われています。「余波」とは「強風が静まった後もまだその影響が残っている波」のこと。したがって、意味的にも通じる部分が感じられます。
例文:
「暦の上ではすでに春だが、冬の名残が雪がちらついていた」
「『半蔵門』『大手町』など、東京には江戸時代の名残である地名が多く存在する」
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