「他山の石」(読み方:たざんのいし)という熟語は、比較的有名な熟語の一つで、「~を他山の石とする」などの形でよく用いられます。

とはいえ日常生活において頻繁に用いられる語ではなく、具体的にどのようなことを表すのか、もしくは類義語としてはどのような熟語があるのかといった知識をお持ちでない方もいるかもしれません。

また、この熟語の意味を誤解している人もいるようです。

そこで国語科の教員である私が、「他山の石」という熟語の意味と使い方、またその類義語を説明したいと思います。

「他山の石」とは

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「他山の石」の意味

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「他山の石」には以下のような意味があります。

自分の人格を磨くのに役立つ、他人のよくない言行のこと。
出典:新明解四字熟語辞典・第2版。三省堂

中国最古の詩集で、中国古典史の源流として文学研究対象としても高い評価を得ている、儒教の経典『詩経』(読み:しきょう)に由来する熟語です。

『詩経』の中に「他山の石、以(も)って玉を攻(みが)く可(べ)し。」という一節があります。

つまり、よその山から出た粗悪な石も、自分の宝玉を磨くのに役立つという意味で、たとえ他人の誤った言行であっても、自分の反省・修養の助けとなりうることのたとえとして「他山の石」という熟語が生まれました。

「他山の石」の使い方・例文

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次に、「他山の石」の使い方を例文を使って見ていきましょう。

この言葉は、たとえば以下のように用いることができます。

「友人が意識せずに使っている間違った敬語の使い方を他山の石として、自身の言葉遣いを見直す」

「目上の相手であっても砕けた態度で接し、上司からの心象を損ねている同僚の態度を他山の石として、自身の振る舞いを改めた」

「他山の石」と混同されやすい熟語「対岸火災(対岸の火事)」

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「他山の石」という熟語の意味を誤解しているがゆえに、同義語であると誤解されがちな熟語に「対岸火災」(読み方:たいがんのかさい)というものがあります。

「対岸火災(対岸の火事)」の意味

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一般的には「対岸の火事」と慣用するこの熟語には、以下のような意味があります。

\次のページで「「対岸火災(対岸の火事)」の使い方・例文」を解説!/

自分に直接は関係のないできごとのたとえ。
出典:新明解四字熟語辞典・第2版。三省堂

向こう岸で起きた火事、という意味で、直接影響がなく無関心でいられることからできた熟語です。

「対岸」は岸の向こう側という意味ですが、広く「外国」という意味にも用いられます。

「火災」も単に火事という意味だけではなく、暴動・大事故・内乱・戦争などを例えた語です。

「他山の石」を「自分には関係のないもの」という意味に誤解しているがゆえに、同義語であると誤解している方もいるようなので注意しましょう。

「対岸火災(対岸の火事)」の使い方・例文

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次に、「対岸火災(対岸の火事)」の使い方を例文を使って見ていきましょう。

この言葉は、たとえば以下のように用いることができます。

「寄らば大樹の陰で大企業に就職した知人がリストラで再就職に苦戦しているという噂を耳にしたが、企業に雇われることを辞めてフリーランスとなった自分にとっては対岸の火事だった」

「クラスメイトが進路のことで悩んでいる。僕も進路が決まらず日々焦りながら勉強を続けているので、クラスメイトが置かれている状況は決して対岸の火事と思えない」

「他山の石」の類義語その1「殷鑑不遠」

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「他山の石」という言葉の類義語に、「殷鑑不遠(読み方:いんかんふえん)という言葉があります。

「殷鑑不遠」の意味

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「殷鑑不遠」には以下のような意味があります。

身近な失敗例を自分の戒めとせよというたとえ。
また、
自分の戒めとなるものは、近くにあることのたとえ。
出典:新明解四字熟語辞典・第2版。三省堂

この熟語も「他山の石」同様、中国古典『詩経』に由来するものです。

『詩経』の中に「殷鑑遠からず、夏后(かこう)の世に在り。」という一節があります。

つまり、殷王朝の戒めとなる見本は、遠い昔に求めなくても、すぐ前代の夏王朝の暴政による滅亡があるという意味です。

「殷」は古代中国の王朝の名。「鑑」は鏡のことで、ここでは手本という意味で用いられています。

中国古代の王朝は「夏(か)」から始まり「殷」(商ともいう)、「周」と続きますが、殷王朝にとっての失敗の前例は、遠くに求めずとも身近な夏王朝の歴史にあり、これを戒めとせよ、という教訓です。

\次のページで「「殷鑑不遠」の使い方・例文」を解説!/

「殷鑑不遠」の使い方・例文

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次に、「殷鑑不遠」の使い方を例文を使って見ていきましょう。

この言葉は、以下のように「殷鑑遠からず」という訓読の形でも用いられることがあります。

「隣人の家庭は宝くじで一等が当選したらしいが、その配分をめぐり家族でもめているらしい。殷鑑遠からず、わが家も臨時収入があったときには気をつけなければならないと思った」

「殷鑑不遠で先人の犯した過ちから生きる術を学んできたつもりでいたが、今日大きな過ちを犯してしまった。まだ人として一人前でない自分の存在を痛感した」

「他山の石」の類義語その2「反面教師」

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また、「他山の石」という言葉の類義語に、「反面教師(読み方:はんめんきょうし)という言葉もあります。

「反面教師」の意味

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「反面教師」には以下のような意味があります。

悪い面の見本で、そうなってはいけないと教えられ、反省の材料となるような人や事例のこと。
出典:新明解四字熟語辞典・第2版。三省堂

他人の言行が「見習うべきものではなく」、逆の意味で自分にとっての教訓になるという意味を持つ熟語です。

「反面教師」の使い方・例文

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次に、「反面教師」の使い方を例文を使って見ていきましょう。

この言葉は、たとえば以下のように用いることができます。

\次のページで「人が経験できる事柄には限りがあるからこそ…」を解説!/

「仕事を覚えるよりも上司に媚びを売ることばかりに必死な同僚を見て嫌気がさし、彼を反面教師として自分の振る舞いを省みようと心に誓う」

「先日ある女性芸能人が番組内で発した言葉が物議を醸しており、好感度が急激に落ちている。彼女を反面教師として、自分も言動には細心の注意を払おうと思う」

人が経験できる事柄には限りがあるからこそ…

以上、「他山の石」の意味と使い方とその類義語について説明しました。

「他山の石」という言葉は「他人の言動を手本にする」「他人の言動のため、自分とは無関係なもの」といった意味で誤用されることもあるようですが、本来そうした使い方をする語ではなく、「自分の人格を高めるのに役立つ、他人の失敗などの良くない言動」を表し、他人の失敗などから学ぶことについていう場合に「~を他山の石とする」といった形で用いられる表現です。

また「反面教師」にも近い意味がありますが、この場合は「悪い見本となる人や事柄」を表し、あえて逆の意味で手本にするような人物や物事」についていう場合に用います。

人間は、様々な経験を通じて立派に成長していく生き物ですが、その経験も、無限に体験できるものではありません。

だからこそ、「他山の石」の精神を忘れず、他人の失敗などを自身の成長に活かす姿勢を忘れてはいけないと思います。

中国に限らず「古典」と呼ばれる世界には、現代人にも通じる思想が描かれているものがたくさんあるのです。古典世界に描かれている内容を「他山の石」とし、自身の人生に役立てましょう。

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言葉の意味

「他山の石」の意味と使い方・類義語は?国語科の教員がサクッとわかりやすく解説!

「他山の石」(読み方:たざんのいし)という熟語は、比較的有名な熟語の一つで、「~を他山の石とする」などの形でよく用いられます。

とはいえ日常生活において頻繁に用いられる語ではなく、具体的にどのようなことを表すのか、もしくは類義語としてはどのような熟語があるのかといった知識をお持ちでない方もいるかもしれません。

また、この熟語の意味を誤解している人もいるようです。

そこで国語科の教員である私が、「他山の石」という熟語の意味と使い方、またその類義語を説明したいと思います。

「他山の石」とは

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「他山の石」の意味

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「他山の石」には以下のような意味があります。

自分の人格を磨くのに役立つ、他人のよくない言行のこと。
出典:新明解四字熟語辞典・第2版。三省堂

中国最古の詩集で、中国古典史の源流として文学研究対象としても高い評価を得ている、儒教の経典『詩経』(読み:しきょう)に由来する熟語です。

『詩経』の中に「他山の石、以(も)って玉を攻(みが)く可(べ)し。」という一節があります。

つまり、よその山から出た粗悪な石も、自分の宝玉を磨くのに役立つという意味で、たとえ他人の誤った言行であっても、自分の反省・修養の助けとなりうることのたとえとして「他山の石」という熟語が生まれました。

「他山の石」の使い方・例文

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次に、「他山の石」の使い方を例文を使って見ていきましょう。

この言葉は、たとえば以下のように用いることができます。

「友人が意識せずに使っている間違った敬語の使い方を他山の石として、自身の言葉遣いを見直す」

「目上の相手であっても砕けた態度で接し、上司からの心象を損ねている同僚の態度を他山の石として、自身の振る舞いを改めた」

「他山の石」と混同されやすい熟語「対岸火災(対岸の火事)」

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「他山の石」という熟語の意味を誤解しているがゆえに、同義語であると誤解されがちな熟語に「対岸火災」(読み方:たいがんのかさい)というものがあります。

「対岸火災(対岸の火事)」の意味

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一般的には「対岸の火事」と慣用するこの熟語には、以下のような意味があります。

\次のページで「「対岸火災(対岸の火事)」の使い方・例文」を解説!/

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