みなさんは「叙述」(読み方:「じょじゅつ」)という言葉をご存じでしょうか?「~を叙述する」などの形でよく用いられています。とはいえ、日常生活の中で頻繁に用いる言葉ではなく、大まかな意味は分かっていても、きちんと説明するとなると難しい言葉です。具体的にどのようなことを表す語なのか、また似た言葉とはどのような違いがあるのか、疑問に思うことがあるかもしれません。では「叙述」の意味と成り立ち、使い方、さらに「描写」「記述」との違いを、新聞記者歴29年の筆者がわかりやすく解説します。

「叙述」とは

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「叙述」とは「物事の事情や考えなどを順を追って述べること。また、その述べたもの」という意味です。

漢字では「序述」と書くこともありますが、同じことを意味します。順序の「序」が含まれていることからも分かるとおり、物事をきちんと順序立てて相手に伝えるというところが重要だといえるでしょう。

また、伝える手段は、基本的には文章です。類語大辞典(講談社、2002年)にも「著す(あらわす)」の項目に分類されており、「順を追って文章で表すこと」という解説がつけられています。

さらに詳しく

「叙述」を「叙」と「述」に分解して、見ていきましょう。

「叙」という漢字は、古くは「順序をつける」ということを意味しましたが、次第に「順序立てて陳述する」「ありのままに述べる」といった意味が加わっていったようです。

また、「述」は「(意味や筋道などを)述べて明らかにする」というところから、「記述する」ことを意味するようになりました。

以上のことから「叙述」は「順を追って述べること」を指す言葉だとお分かりいただけるでしょう。

古い用例

日本における古い「叙述」の用例としては、仏教臨済宗の僧・笑雲清三(しょううん・せいざん)の編纂による『四河入海(しがにっかい)』(1534年成立)に、「坡が我事を叙述して~」とあります。

『四河入海』とは、中国宋代の詩人・蘇東坡(1037-1101年)の詩の解説書です。この部分は「蘇東坡が自分のことを述べて~」という意味ですが、日本の戦国時代にはすでに、現代と同じ使い方がなされていました。

「叙述」の使い方

以上を踏まえて、「叙述」の例文を4つ挙げました。

「この本の筆者は自身で行った取材や既存の資料をもとにして事件をありのままに叙述している」

「その小説は巧みな叙述トリックが仕掛けられていて読み応えのある作品だった」

「この本には当時の出来事が詳細に叙述されている」

「その小説は敢えて余分な描写を抑えて、簡潔で無駄のない叙述の文章によって進められている」

正岡子規『従軍紀事』

ちなみに、明治の俳人・正岡子規の『従軍紀事』(1896年)には、以下のような文章があります。

「余はその参考に資せんがためにここに自ら経歴する所を叙述せんとす。」

1895年、日清戦争の折、子規は従軍記者として遼東半島に渡ります。そのときの軍部将校による新聞記者への差別的な待遇を、ありのまま読者に伝えようとする意図が明確に感じられる一節です。まさに「叙述」を使った文章の好例として、紹介しました。

「描写」「記述」との違い

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「叙述」「描写」「記述」いずれも物事を相手に伝えるというときに使われる言葉です。では、それぞれ異なる意味があるのでしょうか?使用例を挙げて詳しく解説していきます。

\次のページで「「描写」とは」を解説!/

「描写」とは

「描写」の意味は「えがきうつすこと、形象・事態・感情などを絵画・言語・音楽などにより的確に描き出すこと」です。本来は主に言葉で写すことを指したようですが、現在では多様な表現において「描写」が使われます。

例えば、このように使うことができるでしょう。

「その小説は登場人物の人柄が実に細かく描写されている」

「叙述」との違いをまとめてみましょう。「叙述」は文章によって明確に順序立てて説明していくことが求められます。一方、「描写」の場合、そうした順序や説明的な部分は要求されません。さらに、幅広いメディアに使用が可能なので、映画や漫画などにも用いることができます。

「記述」とは

「記述」の意味は「事柄を説明するために書き記すこと。また、書き記したもの」です。

例えば、このように使います。

「報告書に作業の内容を記述する」

「叙述」と同じように、「記述」は文章によって説明をすることが必要条件です。その点において、かなり近い意味の言葉だといえるでしょう。ですから、説明的な文章では、「叙述」と「記述」のどちらを使っても構わないケースがあります。

ただ、違いがあるのは、「記述」は順序立ててという、構造的な意味合いを持たないことです。

つまり、「描写」は「文章や絵画、音楽といった具体的にそのことが想像できるような形で人の感情や物事の形などを表現すること」、「記述」は「何らかの事柄について文章で書いて記録すること」、「叙述」は「ある物事について筋道を立てて書き表すこと」を表すというニュアンスの違いがあります。

その他の類語

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他にも「叙述」に近い意味の言葉が多数存在します。前出の「序述」だけでなく「述叙」「叙論」は、「叙述」とまったく同じ意味を持つ言葉です。さらに、以下のような言葉もあるので、覚えておくと役に立つかもしれません。

直叙:感想や虚構などを加えずにありのままに表すこと

著述:発表することを前提に文章を書くこと

論述:意見や考えを筋道を立てて述べること

叙事:感想や虚構を加えずに事柄をありのままに詩や文章にすること

叙情:感情を詩や文章で表すこと

ちなみに、英語ではdescriprionが「叙述」を言い表す言葉です。例えば「It is beautiful beyond descriprion.」(筆舌に尽くしがたいほど美しい)などと使います。ただし、descriptionは「叙述」「描写」「記述」いずれの意味でも使うので、訳す場合は文脈を考えて慎重に言葉を選ぶ必要があるでしょう。

「叙述」を上手に使うには

以上、「叙述」の意味と成り立ち、使い方、さらに「描写」「記述」との違いについてまとめました。

「叙述」は、「文章によって、物事の筋道などを順序立てて、ありのまま説明すること(したもの)」ということを表現したい場合に使う言葉です。「文章」「順序」「ありのまま」の3つがキーワードとなります。

一方、「描写」は「文章に限らず、音楽、絵画などを用いて、感情などについて表現すること(したもの)」を表し、「記述」は「順序に縛られず、文章によって説明すること(したもの)」を意味する言葉です。

いずれも、物事を的確に伝える行為に関する言葉であることは共通しています。ですが、少しずつ異なるニュアンスを持っており、意識してそれぞれの語をうまく使い分けるとよいでしょう。

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言葉の意味

「叙述」の意味と使い方・例文・「描写」「記述」との違いは?新聞記者歴29年の筆者がわかりやすく解説!

みなさんは「叙述」(読み方:「じょじゅつ」)という言葉をご存じでしょうか?「~を叙述する」などの形でよく用いられています。とはいえ、日常生活の中で頻繁に用いる言葉ではなく、大まかな意味は分かっていても、きちんと説明するとなると難しい言葉です。具体的にどのようなことを表す語なのか、また似た言葉とはどのような違いがあるのか、疑問に思うことがあるかもしれません。では「叙述」の意味と成り立ち、使い方、さらに「描写」「記述」との違いを、新聞記者歴29年の筆者がわかりやすく解説します。

「叙述」とは

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「叙述」とは「物事の事情や考えなどを順を追って述べること。また、その述べたもの」という意味です。

漢字では「序述」と書くこともありますが、同じことを意味します。順序の「序」が含まれていることからも分かるとおり、物事をきちんと順序立てて相手に伝えるというところが重要だといえるでしょう。

また、伝える手段は、基本的には文章です。類語大辞典(講談社、2002年)にも「著す(あらわす)」の項目に分類されており、「順を追って文章で表すこと」という解説がつけられています。

さらに詳しく

「叙述」を「叙」と「述」に分解して、見ていきましょう。

「叙」という漢字は、古くは「順序をつける」ということを意味しましたが、次第に「順序立てて陳述する」「ありのままに述べる」といった意味が加わっていったようです。

また、「述」は「(意味や筋道などを)述べて明らかにする」というところから、「記述する」ことを意味するようになりました。

以上のことから「叙述」は「順を追って述べること」を指す言葉だとお分かりいただけるでしょう。

古い用例

日本における古い「叙述」の用例としては、仏教臨済宗の僧・笑雲清三(しょううん・せいざん)の編纂による『四河入海(しがにっかい)』(1534年成立)に、「坡が我事を叙述して~」とあります。

『四河入海』とは、中国宋代の詩人・蘇東坡(1037-1101年)の詩の解説書です。この部分は「蘇東坡が自分のことを述べて~」という意味ですが、日本の戦国時代にはすでに、現代と同じ使い方がなされていました。

「叙述」の使い方

以上を踏まえて、「叙述」の例文を4つ挙げました。

「この本の筆者は自身で行った取材や既存の資料をもとにして事件をありのままに叙述している」

「その小説は巧みな叙述トリックが仕掛けられていて読み応えのある作品だった」

「この本には当時の出来事が詳細に叙述されている」

「その小説は敢えて余分な描写を抑えて、簡潔で無駄のない叙述の文章によって進められている」

正岡子規『従軍紀事』

ちなみに、明治の俳人・正岡子規の『従軍紀事』(1896年)には、以下のような文章があります。

「余はその参考に資せんがためにここに自ら経歴する所を叙述せんとす。」

1895年、日清戦争の折、子規は従軍記者として遼東半島に渡ります。そのときの軍部将校による新聞記者への差別的な待遇を、ありのまま読者に伝えようとする意図が明確に感じられる一節です。まさに「叙述」を使った文章の好例として、紹介しました。

「描写」「記述」との違い

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「叙述」「描写」「記述」いずれも物事を相手に伝えるというときに使われる言葉です。では、それぞれ異なる意味があるのでしょうか?使用例を挙げて詳しく解説していきます。

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