みなさんは「逡巡」(読み方:「しゅんじゅん」)という言葉を使ったことがありますか?「~に逡巡する」「逡巡して~できない」などの形でよく用いられています。とはいえ、日常会話の中でそれほど頻繁に用いられる言葉ではありません。具体的にどのようなことを表すのか、詳しく説明するのは困難な言葉のひとつかもしれません。それでは、「逡巡」の詳細な意味や成り立ち、使い方、類義語について、新聞記者歴29年の筆者がわかりやすく解説します。

「逡巡」とは

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「逡巡」とは「決断をためらうこと。ぐずぐずすること」という意味です。通常は、あまりポジティブな意味では使いません。決めるべきことを先延ばしにしてしまって、円滑に事が運ばないといったニュアンスを含むことが多いでしょう。

ちなみに「逡巡」を説明するときに使う「ためらう」とは、漢字では「躊躇う」と書きます。いずれも「思い切りがつかなくて迷う」ということです。「逡巡」は「躊躇(ちゅうちょ)」と置き換えても、文章の意味が大きく変わることはありません

さらに「躊躇逡巡」と同じ意味の熟語を重ねて、ことさらに意味を強調する四字熟語もあります。

日常の会話の中で使われることは比較的少なく、小説などの著作・文章で多くみられるようです。一方、ビジネスシーンでは迅速な意思決定が好まれる傾向にあるため、そうした場面では「逡巡すべきではない」といった否定的な使われ方となるでしょう。

本来の意味は

「逡巡」を2文字に分解して、考えてましょう。

「逡」という漢字の意味は「譲る、しりぞく」ということです。

また、「巡」は「見回る、視察する」ということを意味します。

こうしたことから「逡巡」は、「同じ場所でうろうろしてすすまないさま」を表現する言葉でした。転じて「繰り延べる、引き延ばす」様子、さらには「決心がつかずぐずぐずすること」を言い表すようになったようです。

古い用例

中国唐代の詩人・白居易(772-846年)の『秦中吟/重賦』には「不許暫逡巡(しばらくしゅんじゅんするをゆるさず)」という記述があります。「少しもぐずぐずしていることが許されない」ということで、すでに現代と同じ意味で「逡巡」が使われていました。

日本の用例では、明治の文豪・夏目漱石(1867-1916年)の『道草』に「彼の頭が彼に適当な解決を与えるまで彼は逡巡しなければならなかった。」とあります。ストレートではない、かなり複雑な言い回しが、いかにも葛藤している様子を表現しているようです。

「逡巡」の使い方

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以上を踏まえて、「逡巡」を使った例文を4つ紹介します。

「親は大学への進学を勧めてくるが、自分自身、大学に行く意味が分からず逡巡する」
「同窓会の案内が来たが、あまり乗り気ではなくどう返信するか逡巡している」
「複数の企業から内定をもらい、どの企業を選択するか逡巡している」
「数日間逡巡して、結局彼の誘いは断ることにした」

「逡巡」と似た意味の言葉

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「逡巡」と似た意味を持つ言葉も、いくつか存在します。代表的なものとしては「尻込み」「二の足を踏む」が挙げられるでしょう。それぞれの微妙なニュアンスの違いを、いくつかの例文を含めて解説していきます。

\次のページで「尻込み(しりごみ)」を解説!/

尻込み(しりごみ)

「尻込み」は「後込み」とも書きます。辞書には「気後れしてためらうこと、逡巡」とあるので、一般的には「逡巡」と同様の使い方をして構わないでしょう。ただ、「尻込み」させる何か(もの・現象・相手)があり、気持ちが圧倒されている様子を強調したいときに、多く使われるようです。

また、「逡巡」と同じくポジティブな意味で使われることはありませんが、日常会話の中では「逡巡」より使いやすい言葉かもしれません。

「Webクリエイターの仕事に興味があり転職を考えているが、センスが必要とされるため自分には無理かもしれないと尻込みする」

「カフェの経営を希望しているが、廃業率の高さに尻込みしている」

二の足を踏む(にのあしをふむ)

「二の足を踏む」とは、古代舞楽にルーツを持つ「二の舞(にのまい)」という言葉から派生しました。舞を舞うとき、前者(一の舞という)と同じように右足と左足がうまく交互に出せず、ためらうところからきています。

ですから本来は、前例や過去の経験を踏まえたうえで「二の足を踏む」となりますが、現在ではあまりその部分を意識することなく、単にためらうことをこう表現するようです。

またこちらも、「尻込み」と同様に、比較的違和感なく日常会話レベルで使うことができるでしょう。

「その職種は特に未経験者の採用に二の足を踏む企業が多い」

「プレゼントを買おうと店の前まできたが、高級感溢れる店構えに気後れして二の足を踏む」

 

「逡巡」の対義語と英語

「逡巡」の対義語は、「断行」「決断」「迷わず~」「すぐに~」などが挙げられるでしょう。

一方、英語ではhesitationが「逡巡」と訳されます。

「逡巡」の上手な使い方

以上、「逡巡」の詳細な意味や成り立ち、使い方、類義語について解説してきました。

この言葉は、本来は「同じ場所でうろうろしてすすまないさま」を言い表していましたが、いつの間にか心の動きを表現するようになりました。物事をすぐに決められず、決断を先延ばしにする場合に用いることができます。

また、決められないのは決断力のなさ、自信のなさにもつながりますから、「逡巡する」のはビジネスの場ではあまり好まれません。

似た意味の言葉に、「尻込み」「二の足を踏む」があります。それぞれ、由来やニュアンスは異なりますが、現在ではそれほど意識して使い分ける必要はないようです。むしろ、文章なのか、日常会話なのかといった使いどころで選択するのがよいでしょう。

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言葉の意味

「逡巡」の意味と使い方・例文・類義語は?新聞記者歴29年の筆者がわかりやすく解説!

みなさんは「逡巡」(読み方:「しゅんじゅん」)という言葉を使ったことがありますか?「~に逡巡する」「逡巡して~できない」などの形でよく用いられています。とはいえ、日常会話の中でそれほど頻繁に用いられる言葉ではありません。具体的にどのようなことを表すのか、詳しく説明するのは困難な言葉のひとつかもしれません。それでは、「逡巡」の詳細な意味や成り立ち、使い方、類義語について、新聞記者歴29年の筆者がわかりやすく解説します。

「逡巡」とは

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「逡巡」とは「決断をためらうこと。ぐずぐずすること」という意味です。通常は、あまりポジティブな意味では使いません。決めるべきことを先延ばしにしてしまって、円滑に事が運ばないといったニュアンスを含むことが多いでしょう。

ちなみに「逡巡」を説明するときに使う「ためらう」とは、漢字では「躊躇う」と書きます。いずれも「思い切りがつかなくて迷う」ということです。「逡巡」は「躊躇(ちゅうちょ)」と置き換えても、文章の意味が大きく変わることはありません

さらに「躊躇逡巡」と同じ意味の熟語を重ねて、ことさらに意味を強調する四字熟語もあります。

日常の会話の中で使われることは比較的少なく、小説などの著作・文章で多くみられるようです。一方、ビジネスシーンでは迅速な意思決定が好まれる傾向にあるため、そうした場面では「逡巡すべきではない」といった否定的な使われ方となるでしょう。

本来の意味は

「逡巡」を2文字に分解して、考えてましょう。

「逡」という漢字の意味は「譲る、しりぞく」ということです。

また、「巡」は「見回る、視察する」ということを意味します。

こうしたことから「逡巡」は、「同じ場所でうろうろしてすすまないさま」を表現する言葉でした。転じて「繰り延べる、引き延ばす」様子、さらには「決心がつかずぐずぐずすること」を言い表すようになったようです。

古い用例

中国唐代の詩人・白居易(772-846年)の『秦中吟/重賦』には「不許暫逡巡(しばらくしゅんじゅんするをゆるさず)」という記述があります。「少しもぐずぐずしていることが許されない」ということで、すでに現代と同じ意味で「逡巡」が使われていました。

日本の用例では、明治の文豪・夏目漱石(1867-1916年)の『道草』に「彼の頭が彼に適当な解決を与えるまで彼は逡巡しなければならなかった。」とあります。ストレートではない、かなり複雑な言い回しが、いかにも葛藤している様子を表現しているようです。

「逡巡」の使い方

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以上を踏まえて、「逡巡」を使った例文を4つ紹介します。

「親は大学への進学を勧めてくるが、自分自身、大学に行く意味が分からず逡巡する」
「同窓会の案内が来たが、あまり乗り気ではなくどう返信するか逡巡している」
「複数の企業から内定をもらい、どの企業を選択するか逡巡している」
「数日間逡巡して、結局彼の誘いは断ることにした」

「逡巡」と似た意味の言葉

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「逡巡」と似た意味を持つ言葉も、いくつか存在します。代表的なものとしては「尻込み」「二の足を踏む」が挙げられるでしょう。それぞれの微妙なニュアンスの違いを、いくつかの例文を含めて解説していきます。

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