みなさんは「もとい」という言葉を使ったことがありますか?言い間違いをして、正しく言い直すときに「もとい~」といった形でよく使われています。主に会話の中で用いる表現ですが、具体的にどのようなことを指しているのかについて説明するのは、意外に簡単ではありません。また、同じような場面で使う「改め(あらため)」とはどのような違いがあるのかも気になるところです。今回の記事では「もとい」の基本的な意味と使い方、さらに「改め」との違いについて、新聞記者歴29年の筆者が詳しく解説していきます。

「もとい」とは

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伝えたいことを言葉にするとき、的確な表現を思いつかずに、つい変なことを口走ってしまうことはありませんか?そのようなシチュエーションで「もとい」が存在感を発揮します。

それではまず、「もとい」の意味と使い方について説明していきましょう。

「もとい」の意味

「もとい」には2通りの意味があります。

1.体操などで、いったん取った姿勢を元の姿勢に戻すことを命じるときに発する語。なおれ。

2.前言を取り消して言い直しをするときに発する語。

「1.元の姿勢に戻すことを命じる」の場合に想定されるのは、先生やチームリーダーなどによる号令です。したがって、1人から複数人に対して、多くは大きな声で発せられる言葉になります。

「2.言い直しをする」の場合には、前段と後段の間に「もとい」と使い、前段の間違いを後段で訂正するといった使い方です。特徴としては、「口語(会話)で使われること」が挙げられます。文章・書面に「もとい」を用いることは、ほぼありません。また「自分の発言を訂正する際に使う」という点も押さえておきましょう。

後者の意味では基本的に「一度言ったことをなかったことにして(元の白紙に戻して)、“もとい”の後に正しいことを言いますよ」という含みを持ちます。本当にミスを取り消したい場合もあれば、故意に口を滑らせておいて相手をからかう場合もあるでしょう。いずれにせよ、あまり頻繁に使うと信用を失ったり、相手を怒らせることにもつながりかねないので気を付けたいですね。

「もとい」の語源

「もとい」は「もとへ(元へ)」という語から変化したと言われています。大声で叫ぶように遠くから号令をかけられると、細かいところが聞き取りにくかったりもするので、この変化については納得ですね。

「もと」と読む漢字には「元・本・基・下・許・素」などがあります。本来は同じ語源を持ちますが、意味はそれぞれ細かく分岐していきました。「元」は「一番初めに物事を作り出し、引き起こしたもと。一番初め。最初」ということを指します。

つまり、「もとい・もとへ(元へ)」は「一度スタートしたけれども、いったん一番最初まで戻ります」という宣言だと言えるでしょう。

ルーツはオランダ?

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「もとい」は本来、軍隊の用語だったと辞書にあります。確かに「1.元の姿勢に戻すことを命じる」意味では、軍隊式にも感じられますね。

1886年、文部大臣・森有礼(もり・ありのり)の名で「府県立尋常中学校体操中兵式体操細目」が出されており、学校で教える体育(科目名「兵式体操」)は「歩兵操典(ほへいそうてん)」に沿って軍隊式でやりましょうと決められました。軍隊用語と現在の体育は、ここでつながります。1人から複数人に対して発せられるというのも、「部隊長から歩兵に対して」というところが源流となっているようです。

しかし、1878年に陸軍省(当時)が出した「歩兵操典」には「直レ(なおれ)」の号令はあっても「もとい」は残念ながら見当たりません。さらに時代をさかのぼって幕末期、オランダ式西洋砲術の用語を日本語化するという作業がなされました。その中に「モドセ」という用語を見ることができます。これこそ「(元へ)戻せ」の意でしょうか。

もし、このときの「モドセ」が後の「元へ」「もとい」につながったとするならば、由来はオランダの砲術用語だったということになりますが、真相はどうなのでしょう。

では以上を踏まえて、「もとい」の現在の使い方を例文で見ていきましょう。

「高橋さん、もとい川野さん。つい旧姓で呼んでしまい失礼しました」

「それでは次に32ページの…、もとい33ページの項目に移ります」

「山田課長、もとい山田営業部長。このたびは昇進おめでとうございます」

「この店舗の従業員は現在35人…、もとい今月入った新人も含めて37人です」

「太田さん、もとい太田主任、部長からお電話が入っております」

「改め」との違い

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では次に、「もとい」と近いイメージを持つ「改め」について見ていきます。

前段を言い直すという点では共通していますが、必ずしも間違いを訂正するというニュアンスはなさそうです。本当のところはどうなのか、詳しく説明していきましょう。

「改め」の意味と使い方

「改め」は「新しくする。変える」「直す。改善する」という意味の動詞「改める」の連用形で「新しく替えて」という意味です。

接続詞的な使い方が可能で、前段と後段をつなぐ働きがあります。ただし、前段を否定する意味合いは持たず、新しい言葉で言い換える(多くは名詞の言い換え)際に用いられるようです。

「改め」の「あらた」は、「新た(あらた)」と同語源とされています。古くは「ある(生る)」から発生した言葉で、「生れ出る。ものを生成する」意味合いがありました。次第に「新」が「新しく生まれる」ニュアンスを持つのに対し、「改」は「変革・復活」の含みを持つようになったと言います。

「改め」の持つニュアンスをお分かりいただいたところで、以上を踏まえて、使い方を例文で見ていきましょう。

例文:

「社名変更を経てその企業はコーチ・インク改めタペストリー・インクとなった」

「七代目市川染五郎改め十代目松本幸四郎として各方面で活躍している」

「六代目月の家圓鏡改め八代目橘家圓蔵の名演が思い起こされる」

\次のページで「他の類義語」を解説!/

「もとい」を、「2.言い直しをする」の意味で用いた場合、「改め」と同じように前段と後段をつなぐ働きがありますが、意味には明確な違いがありました。

・「もとい~」=直前に言ったことをいったん取り消して、もう一度最初から言い直す。つまり、「前段が誤りで後段が正しい」という意味。

・「改め~」=直前に言ったことを受け、後段では新しい別の言葉で言い換える。つまり、「前段の情報(主に名詞)を後段で新しい情報に更新する」という意味。正誤の問題ではない。

他の類義語

ちなみに、「もとい」のように、口語(会話)限定で使用が可能な言い直しの言葉がいくつかあるので、紹介しましょう。

いや:「文書によると2~3日かかるようです。いや、今来ました」

じゃなくて(ではなく):「水泡になる、じゃなくて水泡に帰す、です」

違う違う:「ここからだと西側に当たる。違う違う、西北だな」

 

訂正しなくて済むのが一番ですが…

以上、「もとい」の基本的な意味と使い方、さらに「改め」との違いについて、詳しく解説してきました。

この言葉「元へ」から変化した語で「体操などで、元の姿勢に戻すときの号令」と、接続詞的な使い方で「言い直しするときに使う語」という2つの意味がありました。本来は軍隊式の号令からきた言葉だと言われており、明治時代の学校教育に取り入れられたことにより広まりました。一般的には後者の意味でよく使われ、会話において前に言ったことを取り消して言い直す時に用いる言葉です。

同じく前に言ったことを言い直すときの語に「改め」があります。こちらは、前に言ったことを取り消す意味はなく、新しい情報(主に名詞)に更新するときに用いる語です。

さらに、言い直しをするときに使う語は「いや」「じゃなくて(ではなく)」「違う違う」など非常に多様で、それぞれ違ったニュアンスを持っています。もちろん、言い直さなくて済むのが一番ですが、もし訂正が必要となった場合は、相手関係や場面を考慮して使い分けるとよいでしょう。

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言葉の意味

「もとい」の意味と使い方・例文・類義語・「改め」との違いは?新聞記者歴29年の筆者がわかりやすく解説!

みなさんは「もとい」という言葉を使ったことがありますか?言い間違いをして、正しく言い直すときに「もとい~」といった形でよく使われています。主に会話の中で用いる表現ですが、具体的にどのようなことを指しているのかについて説明するのは、意外に簡単ではありません。また、同じような場面で使う「改め(あらため)」とはどのような違いがあるのかも気になるところです。今回の記事では「もとい」の基本的な意味と使い方、さらに「改め」との違いについて、新聞記者歴29年の筆者が詳しく解説していきます。

「もとい」とは

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伝えたいことを言葉にするとき、的確な表現を思いつかずに、つい変なことを口走ってしまうことはありませんか?そのようなシチュエーションで「もとい」が存在感を発揮します。

それではまず、「もとい」の意味と使い方について説明していきましょう。

「もとい」の意味

「もとい」には2通りの意味があります。

1.体操などで、いったん取った姿勢を元の姿勢に戻すことを命じるときに発する語。なおれ。

2.前言を取り消して言い直しをするときに発する語。

「1.元の姿勢に戻すことを命じる」の場合に想定されるのは、先生やチームリーダーなどによる号令です。したがって、1人から複数人に対して、多くは大きな声で発せられる言葉になります。

「2.言い直しをする」の場合には、前段と後段の間に「もとい」と使い、前段の間違いを後段で訂正するといった使い方です。特徴としては、「口語(会話)で使われること」が挙げられます。文章・書面に「もとい」を用いることは、ほぼありません。また「自分の発言を訂正する際に使う」という点も押さえておきましょう。

後者の意味では基本的に「一度言ったことをなかったことにして(元の白紙に戻して)、“もとい”の後に正しいことを言いますよ」という含みを持ちます。本当にミスを取り消したい場合もあれば、故意に口を滑らせておいて相手をからかう場合もあるでしょう。いずれにせよ、あまり頻繁に使うと信用を失ったり、相手を怒らせることにもつながりかねないので気を付けたいですね。

「もとい」の語源

「もとい」は「もとへ(元へ)」という語から変化したと言われています。大声で叫ぶように遠くから号令をかけられると、細かいところが聞き取りにくかったりもするので、この変化については納得ですね。

「もと」と読む漢字には「元・本・基・下・許・素」などがあります。本来は同じ語源を持ちますが、意味はそれぞれ細かく分岐していきました。「元」は「一番初めに物事を作り出し、引き起こしたもと。一番初め。最初」ということを指します。

つまり、「もとい・もとへ(元へ)」は「一度スタートしたけれども、いったん一番最初まで戻ります」という宣言だと言えるでしょう。

ルーツはオランダ?

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「もとい」は本来、軍隊の用語だったと辞書にあります。確かに「1.元の姿勢に戻すことを命じる」意味では、軍隊式にも感じられますね。

1886年、文部大臣・森有礼(もり・ありのり)の名で「府県立尋常中学校体操中兵式体操細目」が出されており、学校で教える体育(科目名「兵式体操」)は「歩兵操典(ほへいそうてん)」に沿って軍隊式でやりましょうと決められました。軍隊用語と現在の体育は、ここでつながります。1人から複数人に対して発せられるというのも、「部隊長から歩兵に対して」というところが源流となっているようです。

しかし、1878年に陸軍省(当時)が出した「歩兵操典」には「直レ(なおれ)」の号令はあっても「もとい」は残念ながら見当たりません。さらに時代をさかのぼって幕末期、オランダ式西洋砲術の用語を日本語化するという作業がなされました。その中に「モドセ」という用語を見ることができます。これこそ「(元へ)戻せ」の意でしょうか。

もし、このときの「モドセ」が後の「元へ」「もとい」につながったとするならば、由来はオランダの砲術用語だったということになりますが、真相はどうなのでしょう。

では以上を踏まえて、「もとい」の現在の使い方を例文で見ていきましょう。

「高橋さん、もとい川野さん。つい旧姓で呼んでしまい失礼しました」

「それでは次に32ページの…、もとい33ページの項目に移ります」

「山田課長、もとい山田営業部長。このたびは昇進おめでとうございます」

「この店舗の従業員は現在35人…、もとい今月入った新人も含めて37人です」

「太田さん、もとい太田主任、部長からお電話が入っております」

「改め」との違い

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では次に、「もとい」と近いイメージを持つ「改め」について見ていきます。

前段を言い直すという点では共通していますが、必ずしも間違いを訂正するというニュアンスはなさそうです。本当のところはどうなのか、詳しく説明していきましょう。

「改め」の意味と使い方

「改め」は「新しくする。変える」「直す。改善する」という意味の動詞「改める」の連用形で「新しく替えて」という意味です。

接続詞的な使い方が可能で、前段と後段をつなぐ働きがあります。ただし、前段を否定する意味合いは持たず、新しい言葉で言い換える(多くは名詞の言い換え)際に用いられるようです。

「改め」の「あらた」は、「新た(あらた)」と同語源とされています。古くは「ある(生る)」から発生した言葉で、「生れ出る。ものを生成する」意味合いがありました。次第に「新」が「新しく生まれる」ニュアンスを持つのに対し、「改」は「変革・復活」の含みを持つようになったと言います。

「改め」の持つニュアンスをお分かりいただいたところで、以上を踏まえて、使い方を例文で見ていきましょう。

例文:

「社名変更を経てその企業はコーチ・インク改めタペストリー・インクとなった」

「七代目市川染五郎改め十代目松本幸四郎として各方面で活躍している」

「六代目月の家圓鏡改め八代目橘家圓蔵の名演が思い起こされる」

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