「おざなり」という言葉は、「おざなりの~」「おざなりに~する」などの形でよく用いられています。あまりよい意味で使われることがない言葉ですが、語感が非常に似ている「なおざり」と混同されて理解されがちです。実はそれぞれ違う意味を持っている言葉ですから、同じ使い方では誤用となってしまうのはご存じでしたか?とはいえ、意味の違いのを具体的に説明しようとすると、意外に簡単ではありません。今回の記事では「おざなり」の意味・語源と使い方、また「なおざり」との違いについて、新聞記者歴29年の筆者が詳しく解説していきます。

「おざなり」とは

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「おざなり」は通常、人の行為・行動などを批判するときの表現として使われます。では、何をどうすれば(しなければ)「おざなり」なのでしょうか。

以下に「おざなり」の意味・語源と使い方を説明していきましょう。

「おざなり」の意味

「おざなり」は漢字を使って表記すると「御座形」となります。意味は「誠意のない、その場限りの間に合わせである事。手抜き」です。

主に他人の対応や行為・行動、また考え方や計画・手法などに対して、「あまりに誠意を欠いていてその場しのぎではないか」と批判をするときに用いられます。一方、自分自身のことに対して使う場合には「面倒だから」「無駄に思えるから」といった、マイナスの感情と強く結びついた表現となるでしょう。

「おざなり」の語源

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「おざなり」は本来、江戸時代のお座敷語として使われ始めたようです。「御座形」の「座」は宴会などの御座敷のこと。また「形」は「それに相応の」という意味です。接頭辞の「お」に敬う意味はなく、この場合は「おそまつ」「おさらば」のような、美化語と考えてよいでしょう。

江戸時代の川柳集『柳多留(やなぎだる)』には「お座なりに芸子調子を合はせてる」とあり、芸者が酔った客に適当に調子を合わせている様子がうまく表現されています。

つまり由来は、客を楽しませるはずの芸者や太鼓持ち(幇間)が、御座敷の雰囲気に合わせて適当に手を抜くことでした。これが現代のいい加減なイメージにつながったと言えます。

以上を踏まえて、現在の「おざなり」の使い方を例文で見ていきましょう。

「おざなりの計画案で乗り切ろうとするのは決して正解ではない」

「融資の相談に行ったが、職員はおざなりなことを言うばかりで相手にしてもらえなかった」

「会社には単なるバイトだからとおざなりに報告をして済ます」

「無責任な運営団体にクレームをつけても、待っているのはおざなりの対応である」

「彼はおざなりで済まそうとせず、最後まで話を聞こうとした」

「遅刻の理由が体調不良というのは決しておざなりな言い訳ではなかった」

「彼のおざなりの謝罪は、逆に感情を逆なでされる思いだ」

間違えやすい「なおざり」

「おざなり」の語順を入れ替えると「なおざり」です。字数、使われている文字が同じなので、語感が非常によく似ています。また、イメージにも共通のものがあり、最近特に誤用が多い言葉の一つかもしれません。

それでは次に、「なおざり」について詳しく見ていきましょう。

「なおざり」の意味と使い方

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「なおざり」は漢字を使って表記すると「等閑」となります。そのまま「とうかん」と音読みしても意味は同じです。意味は「深く心に留めず、いい加減にしておく事。おろそか」となります。物事に対して真面目に取り組まないことを批判する意味で用いられる言葉です。

本来は「すなおでまっすぐ」な様子を表す「直(なお)」に、打消しの意味の「ざり」が付いた形で、「(本当は大事なことなのに)軽く見てまともに考えない」といった様子を言い表しました。

平安時代に書かれた紫式部『源氏物語』「若紫」にはすでに用例が見られ、「ゆくての御事はなほざりにも思ひ給へなされしを」(大意:出がけにおっしゃったことは軽い冗談かと思っていたのに)とあります。今日と比べマイナス評価の意味合いはそれほどなかったのかもしれません。

ちなみに、関連する古い言葉もあるので、紹介しておきます。

・「等閑言(なほざりごと)」:いい加減な真実味のない言葉。

・「等閑事(なほざりごと)」:いい加減にすること。その場限りのこと。

以上を踏まえて、「なおざり」の使い方を例文で見ていきましょう。

 

「この種の仕事をなおざりにしておくとは何事だと注意を受けた」

「以前に一度調査した経緯があるので、やり直すとなるとなおざりになるのは避けられない」

「基礎の勉強をなおざりにすると、どこかで行き詰ってしまう」

「情報更新をなおざりにしてきたことを、今更ながら後悔させられた」

\次のページで「誤用と音位転換」を解説!/

いずれも、結果として「いい加減」な行為・行動(言動)を言い表しているという点においては共通で、ほとんど差がないようにも思われます。ただし「おざなり」は「その場に合わせて都合よく手抜きする」という意味での「いい加減」であるのに対し、「なおざり」は「物事を深く考えない」という意味での「いい加減」でした。ここにニュアンスの違いが表れています。

誤用と音位転換

ちなみに、日本語には音位転換した言葉がいくつか見られるようです。

音位転換とは言葉の中の隣接した音が入れ替わってしまうこと。たとえば「あらた(新た)」だったものが「あたら(新)しい」となったり、「さんさか(山茶花)」たっだものが「さざんか」となったりといった事例があります。

したがって「おざなり」と「なおざり」、混同するのは確かに誤用ではありますが、言葉の変化の経緯から仕方がない面があるのかもしれません。

似ているが使い分けは必要

以上、「おざなり」の意味・語源と使い方、また「なおざり」との違いについて、詳しく解説してきました。

この言葉は「誠意がなくその場限り。手抜き」を言い表します。通常は人の対応や行為・行動、また考え方や計画・手法などに対して批判をする場合に用いる言葉です。江戸時代のお座敷語がルーツだと言われています。

一方、非常に混合しやすい「なおざり」という言葉は「物事をおろそかにする。軽視してまともに考えない」ことを表し、こちらも人の行為・行動(言動)などを批判する場合に用いられる言葉です。

最近では混同されるケースも多々ある2つの言葉ですが、両者には明確なニュアンスの違いがあります。意味をよく考えたうえで、区別して使い分けることが必要でしょう。

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言葉の意味

「おざなり」の意味と使い方・「なおざり」との違いは?新聞記者歴29年の筆者がわかりやすく解説!

「おざなり」という言葉は、「おざなりの~」「おざなりに~する」などの形でよく用いられています。あまりよい意味で使われることがない言葉ですが、語感が非常に似ている「なおざり」と混同されて理解されがちです。実はそれぞれ違う意味を持っている言葉ですから、同じ使い方では誤用となってしまうのはご存じでしたか?とはいえ、意味の違いのを具体的に説明しようとすると、意外に簡単ではありません。今回の記事では「おざなり」の意味・語源と使い方、また「なおざり」との違いについて、新聞記者歴29年の筆者が詳しく解説していきます。

「おざなり」とは

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「おざなり」は通常、人の行為・行動などを批判するときの表現として使われます。では、何をどうすれば(しなければ)「おざなり」なのでしょうか。

以下に「おざなり」の意味・語源と使い方を説明していきましょう。

「おざなり」の意味

「おざなり」は漢字を使って表記すると「御座形」となります。意味は「誠意のない、その場限りの間に合わせである事。手抜き」です。

主に他人の対応や行為・行動、また考え方や計画・手法などに対して、「あまりに誠意を欠いていてその場しのぎではないか」と批判をするときに用いられます。一方、自分自身のことに対して使う場合には「面倒だから」「無駄に思えるから」といった、マイナスの感情と強く結びついた表現となるでしょう。

「おざなり」の語源

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「おざなり」は本来、江戸時代のお座敷語として使われ始めたようです。「御座形」の「座」は宴会などの御座敷のこと。また「形」は「それに相応の」という意味です。接頭辞の「お」に敬う意味はなく、この場合は「おそまつ」「おさらば」のような、美化語と考えてよいでしょう。

江戸時代の川柳集『柳多留(やなぎだる)』には「お座なりに芸子調子を合はせてる」とあり、芸者が酔った客に適当に調子を合わせている様子がうまく表現されています。

つまり由来は、客を楽しませるはずの芸者や太鼓持ち(幇間)が、御座敷の雰囲気に合わせて適当に手を抜くことでした。これが現代のいい加減なイメージにつながったと言えます。

以上を踏まえて、現在の「おざなり」の使い方を例文で見ていきましょう。

「おざなりの計画案で乗り切ろうとするのは決して正解ではない」

「融資の相談に行ったが、職員はおざなりなことを言うばかりで相手にしてもらえなかった」

「会社には単なるバイトだからとおざなりに報告をして済ます」

「無責任な運営団体にクレームをつけても、待っているのはおざなりの対応である」

「彼はおざなりで済まそうとせず、最後まで話を聞こうとした」

「遅刻の理由が体調不良というのは決しておざなりな言い訳ではなかった」

「彼のおざなりの謝罪は、逆に感情を逆なでされる思いだ」

間違えやすい「なおざり」

「おざなり」の語順を入れ替えると「なおざり」です。字数、使われている文字が同じなので、語感が非常によく似ています。また、イメージにも共通のものがあり、最近特に誤用が多い言葉の一つかもしれません。

それでは次に、「なおざり」について詳しく見ていきましょう。

「なおざり」の意味と使い方

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「なおざり」は漢字を使って表記すると「等閑」となります。そのまま「とうかん」と音読みしても意味は同じです。意味は「深く心に留めず、いい加減にしておく事。おろそか」となります。物事に対して真面目に取り組まないことを批判する意味で用いられる言葉です。

本来は「すなおでまっすぐ」な様子を表す「直(なお)」に、打消しの意味の「ざり」が付いた形で、「(本当は大事なことなのに)軽く見てまともに考えない」といった様子を言い表しました。

平安時代に書かれた紫式部『源氏物語』「若紫」にはすでに用例が見られ、「ゆくての御事はなほざりにも思ひ給へなされしを」(大意:出がけにおっしゃったことは軽い冗談かと思っていたのに)とあります。今日と比べマイナス評価の意味合いはそれほどなかったのかもしれません。

ちなみに、関連する古い言葉もあるので、紹介しておきます。

・「等閑言(なほざりごと)」:いい加減な真実味のない言葉。

・「等閑事(なほざりごと)」:いい加減にすること。その場限りのこと。

以上を踏まえて、「なおざり」の使い方を例文で見ていきましょう。

 

「この種の仕事をなおざりにしておくとは何事だと注意を受けた」

「以前に一度調査した経緯があるので、やり直すとなるとなおざりになるのは避けられない」

「基礎の勉強をなおざりにすると、どこかで行き詰ってしまう」

「情報更新をなおざりにしてきたことを、今更ながら後悔させられた」

\次のページで「誤用と音位転換」を解説!/

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