日常的に何気なく使っている「とりあえず」という言葉ですが、あまり深い意味を意識することなく「とりあえず?しましょう」といった形で用いられています。しかし、本来の意味や使い方を説明するとなると、意外に簡単ではありません。また、具体的にどのような場面で用いるのが適切なのかも、気になるところです。今回の記事では「とりあえず」の意味や由来、使い方、さらに置き換えが可能な表現について、新聞記者歴29年の筆者が例文を交えて詳しく解説していきます。

「とりあえず」とは

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「とりあえず」は漢字を使って表記すると「取り敢えず」です。

リラックスした友人との会話から緊張感あるビジネス会議まで、日常のさまざまな場面で「とりあえず」が使われています。中には何となく…というケースもありそうですが、本来はきちんと意味がある言葉です。

それでは、以下に「とりあえず」の意味と由来、使い方を説明していきましょう。

「とりあえず」の意味

「とりあえず」には主に以下の2つの意味があります。

1.他に何する暇もなく。たちどころに。すぐに。

2.まず第一に。即座に。他のことは差し置いて、そのことをまず最優先するさま。

「1.他に何する暇もなく」の意味で用いると「当面の問題に対して今できる手段で対処する。先々どうするかは後回し」というニュアンスです。「差し当たり」と置き換えることができるでしょう。また、名詞的に使って「とりあえずの選択」といった形で用いることもあります。

「2.まず第一に」の意味では「暫定的ではあるけれども、この手段で対処していこう」といったニュアンスです。「とりあえずビール!」というケースは、この意味でしょう。こちらは「何はさておき」との置き換えが可能です。

「とりあえず」の由来

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「とりあえず」は「取り敢へず」という形で古くから使われていました。

分解すると接頭辞「取り」+「敢ふ(あふ)」に打消の意味の助動詞「ず」です。

「敢ふ(あふ)」にはいくつかの意味がありますが、この場合は「ことを全うする。〜しきる」の意味です。これに打消の助動詞がつくと「敢へず(あへず)」となり、「たえかねて〜しきれない」意となります。

「取る物も取り敢えず」という慣用句がありますが、この語は「手に持つべきものを持っている時間もなく」というところから、「他に構っている余裕はなく大慌てで」という意味です。

「とりあえず」とどちらが先に生まれた語なのか、はっきりしません。ただ、「取る物も~」では「取る」が実際の動作の意味を残していますが、「とりあえず」では「取る」が意味を失い語勢を強める接頭辞となっています。もしかすると「取る物も~」が「とりあえず」の語源なのかもしれません。

古い用例は、兼好法師『徒然草(つれづれぐさ)』にありました。「女のもの言ひかけたる返り事、とりあへずよきほどにする男は、あり難きものぞ(女性から問われたことに対する返事を、何はさておき適切に行うような男は、珍しい存在だ)」とあります。

この場合では、返事が暫定的ではあっても的を射ていると言っているので、だからこそ「あり難きもの」なのでしょう。

以上を踏まえて、現代の「とりあえず」の使い方を見ていきます。

「仕事の予定が立たないからまだきちんとした返事ができないが、とりあえずメールの返信だけでもしておこう」

「何があるか分からないけれど、とりあえず一万円渡しておきます」

「力になれるかどうかは別として、とりあえず話を聞いてみるとしよう」

「とりあえず現状分かっていることだけでも報告しておいたほうがいい」

「とりあえず当面必要になりそうなものを買い揃えた」

「この後何があるか分からない。今できることと言えば、とりあえず腹ごしらえをしておくことだ」

「合格する可能性は低いだろうが、とりあえずエントリーだけはしておいた」

現代的な使い方では、次の行動に移る際のきっかけとして「じゃあ」「それでは」というくらいの、非常に軽い感じのことも多いようです。こうしたケースだと「とりあえず」でなくてはならない理由は強く感じられません。本来の意味よりも、むしろ言葉のリズムや語感に重きを置いた「とりあえず」の使い方でしょう。

意味が近い言葉

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他にも「とりあえず」と同じようなシチュエーションで用いることができる言葉がいくつか存在します。

その中から代表的な「さしずめ」「ひとまず」について見ていきましょう。シチュエーション次第では、いずれも「とりあえず」との置き換えが可能です。

さしずめ(差し詰め)

鎌倉時代ごろ、次々と手早く矢をつがえることを「差し詰め引き詰め」と表現していたようです。「差し詰め」が「切羽詰まった状態。思いつめた状態」を言い表すようになったのは、これがルーツかもしれません。現在では「結局のところ。結果として」「差し当たって」の意味で使われています。

「差し当たって」の意味での用いると、ニュアンスとしては「暫定的だが現状においては及第点」といった感じでしょう。「とりあえず」よりも少し古風な印象を与えます。

なお、漢字を使った表記が「差し詰め」なので、本来は「さしづめ」が正しいようですが、一般的には「さしずめ」という表記です。国語辞典でもこの表記が項目となっています。

例文:

「さしずめ自分で処理する必要がなくなったので安心した」

「金銭面においては、さしずめ困ることはない」

\次のページで「ひとまず(一先ず)」を解説!/

ひとまず(一先ず)

「ひとまず」は漢字を使った表記では「一先ず」です。

この場合の「先ず(まず)」は「一番最初に」というよりも「ともかく。何はともあれ」といった感じでしょう。「一(ひと)」は「一回」ではなく「ほんの少し」。したがって「ちょっとだけ(他のことは)置いておくとして」、つまり「差し当たって。一応は」というときの表現です。

進行中のことに一旦区切りをつけるニュアンスがあります。

例文:

「ひとまず言うとおりにしておかないと、後で大変なことになりそうだ」

「人間関係がうまくいっているようなので、ひとまず様子を見ることにしよう」

「とりあえず」意味を意識してみよう

以上、「とりあえず」の意味や由来、使い方、さらに置き換えが可能な表現について、詳しく解説してきました。

この言葉は「暫定的ではあるけれども今すぐ当面の事態に対処するために」「他のことは差し置いてまず第一に」という2つのことを表します。かつては「間に合わせ」のイメージだけではなく、リアクションの早さを言う際にも使われていました。現在では、言葉そのものの意味よりもリズムや語感を優先した使い方が見られます。

また、場面によっては「さしずめ」「ひとまず」といった似た表現との置き換えが可能です。シチュエーションに合わせて選択するとよいでしょう。幅広い表現を覚えておくことは、語彙力のアップにもつながるのではないでしょうか。

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言葉の意味

「とりあえず」の意味と使い方・例文は?新聞記者歴29年の筆者がわかりやすく解説!

日常的に何気なく使っている「とりあえず」という言葉ですが、あまり深い意味を意識することなく「とりあえず?しましょう」といった形で用いられています。しかし、本来の意味や使い方を説明するとなると、意外に簡単ではありません。また、具体的にどのような場面で用いるのが適切なのかも、気になるところです。今回の記事では「とりあえず」の意味や由来、使い方、さらに置き換えが可能な表現について、新聞記者歴29年の筆者が例文を交えて詳しく解説していきます。

「とりあえず」とは

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「とりあえず」は漢字を使って表記すると「取り敢えず」です。

リラックスした友人との会話から緊張感あるビジネス会議まで、日常のさまざまな場面で「とりあえず」が使われています。中には何となく…というケースもありそうですが、本来はきちんと意味がある言葉です。

それでは、以下に「とりあえず」の意味と由来、使い方を説明していきましょう。

「とりあえず」の意味

「とりあえず」には主に以下の2つの意味があります。

1.他に何する暇もなく。たちどころに。すぐに。

2.まず第一に。即座に。他のことは差し置いて、そのことをまず最優先するさま。

「1.他に何する暇もなく」の意味で用いると「当面の問題に対して今できる手段で対処する。先々どうするかは後回し」というニュアンスです。「差し当たり」と置き換えることができるでしょう。また、名詞的に使って「とりあえずの選択」といった形で用いることもあります。

「2.まず第一に」の意味では「暫定的ではあるけれども、この手段で対処していこう」といったニュアンスです。「とりあえずビール!」というケースは、この意味でしょう。こちらは「何はさておき」との置き換えが可能です。

「とりあえず」の由来

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「とりあえず」は「取り敢へず」という形で古くから使われていました。

分解すると接頭辞「取り」+「敢ふ(あふ)」に打消の意味の助動詞「ず」です。

「敢ふ(あふ)」にはいくつかの意味がありますが、この場合は「ことを全うする。〜しきる」の意味です。これに打消の助動詞がつくと「敢へず(あへず)」となり、「たえかねて〜しきれない」意となります。

「取る物も取り敢えず」という慣用句がありますが、この語は「手に持つべきものを持っている時間もなく」というところから、「他に構っている余裕はなく大慌てで」という意味です。

「とりあえず」とどちらが先に生まれた語なのか、はっきりしません。ただ、「取る物も~」では「取る」が実際の動作の意味を残していますが、「とりあえず」では「取る」が意味を失い語勢を強める接頭辞となっています。もしかすると「取る物も~」が「とりあえず」の語源なのかもしれません。

古い用例は、兼好法師『徒然草(つれづれぐさ)』にありました。「女のもの言ひかけたる返り事、とりあへずよきほどにする男は、あり難きものぞ(女性から問われたことに対する返事を、何はさておき適切に行うような男は、珍しい存在だ)」とあります。

この場合では、返事が暫定的ではあっても的を射ていると言っているので、だからこそ「あり難きもの」なのでしょう。

以上を踏まえて、現代の「とりあえず」の使い方を見ていきます。

「仕事の予定が立たないからまだきちんとした返事ができないが、とりあえずメールの返信だけでもしておこう」

「何があるか分からないけれど、とりあえず一万円渡しておきます」

「力になれるかどうかは別として、とりあえず話を聞いてみるとしよう」

「とりあえず現状分かっていることだけでも報告しておいたほうがいい」

「とりあえず当面必要になりそうなものを買い揃えた」

「この後何があるか分からない。今できることと言えば、とりあえず腹ごしらえをしておくことだ」

「合格する可能性は低いだろうが、とりあえずエントリーだけはしておいた」

現代的な使い方では、次の行動に移る際のきっかけとして「じゃあ」「それでは」というくらいの、非常に軽い感じのことも多いようです。こうしたケースだと「とりあえず」でなくてはならない理由は強く感じられません。本来の意味よりも、むしろ言葉のリズムや語感に重きを置いた「とりあえず」の使い方でしょう。

意味が近い言葉

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他にも「とりあえず」と同じようなシチュエーションで用いることができる言葉がいくつか存在します。

その中から代表的な「さしずめ」「ひとまず」について見ていきましょう。シチュエーション次第では、いずれも「とりあえず」との置き換えが可能です。

さしずめ(差し詰め)

鎌倉時代ごろ、次々と手早く矢をつがえることを「差し詰め引き詰め」と表現していたようです。「差し詰め」が「切羽詰まった状態。思いつめた状態」を言い表すようになったのは、これがルーツかもしれません。現在では「結局のところ。結果として」「差し当たって」の意味で使われています。

「差し当たって」の意味での用いると、ニュアンスとしては「暫定的だが現状においては及第点」といった感じでしょう。「とりあえず」よりも少し古風な印象を与えます。

なお、漢字を使った表記が「差し詰め」なので、本来は「さしづめ」が正しいようですが、一般的には「さしずめ」という表記です。国語辞典でもこの表記が項目となっています。

例文:

「さしずめ自分で処理する必要がなくなったので安心した」

「金銭面においては、さしずめ困ることはない」

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