手紙の文章やビジネスメールでは、「取り急ぎご報告まで」といったフレーズがよく使われます。実際に使った経験があるという方もおられるでしょう。しかし、上司や目上の方に「取り急ぎ」と使って、失礼な表現には当たらないのか、疑問に思うことはありませんか?今回の記事では、手紙の文章やビジネスメールで使用する「取り急ぎ」という言葉の意味と使い方を、新聞記者歴29年の筆者が詳しく解説します。

「取り急ぎ」とは

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「取り急ぎ」は、日常的にビジネスメールの結びの部分などでよく使われている言葉ですが、本来はどのようなことを指すのでしょうか?まずは意味から解説していきます。

「とりあえず急ぐ」の省略形とする説もありますが、そのような省略語であればなおさら、かしこまった手紙の結びや、目上の方へのメールに使うというのはどうなのでしょう。

しかし一方、実際には幅広い場面で用いられており、必ずしも控えるべき語と片付けるわけにもいかないようです。

「とり」と「急ぐ」

現代の言葉では「取り急ぐ」で一つの動詞とされていますが、本来は接頭辞の「とり」と動詞「急ぐ」が一体化した複合動詞だと思われます。

「急ぐ」はもちろん、「普通よりも時間をかけずに行動をする(始める)こと」です。では「とり」にはどんな意味があるのでしょう。

接頭辞の「とり」は2通りに分類されると言われています。

1.「取り」の動詞としての意味を残したもの:「取り出す」「取り去る」「取り上げる」など。

2.「取り」の動詞としての意味がない(薄い)もの:「取り囲む」「取り乱す」「取り仕切る」など。

「取り急ぐ」は後者ですね。

「取り急ぎ」の意味

以上を踏まえて、「取り急ぎ」の意味を解釈してみましょう。接頭辞の「とり」の役目は、語勢を強めるとともにニュアンスを追加することです。「取り急ぎ」の場合は、単に「急ぎ」と言うときよりも、「さらに急いで、何よりも先に」といったニュアンスが加わります。

こうした「取り急ぎ」を手紙やビジネスメールで使う場合には、さらに一歩踏み込んだニュアンスがプラスされるでしょう。「準備は万端ではないけれども、急いで~することを第一義として考えて」ということの表現となります。

「取り急ぎ」の使い方・例文

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では、具体的にどのような形で使われるのかを紹介していきます。

多くは「緊急を要する、差し迫った用件がある」「急ぎの連絡事項を伝える」などの場合に使われますが、「特別急ぎではないが何となく収まりがよいので」という場合もあるようです。

たとえばメール・手紙の文末において、以下のように用いることができます。

例文:

「取り急ぎ、ご案内申し上げます」

「取り急ぎご報告いたします」

「取り急ぎご通知申し上げます」

「取り急ぎご返事申し上げます」

「取り急ぎ○○ということをお知らせいたします」

「取り急ぎごお願い申し上げます」

「取り急ぎご報告まで」

一般的な「取り急ぎ」の使われ方

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ちなみに、一般的には「取り急ぎ」がどのような使われ方をしているのか、見てみましょう。

統一地方選挙の際、当確発表直後の議員ブログに「取り急ぎご報告まで」とありました。最終的な開票結果が出る前の段階ですから、「取り急ぎ」の意味としては問題ありませんし、支持者・支援者には後日正式に報告するのでしょう。

また、あるニュースに「取り急ぎ被害届を提出する」とありました。「とりあえず急いで」では、十分な内容の被害届は用意できません。ですから「大変急いで」という意味で使われているようです。

使う時の注意

例文では非常に丁寧な印象を与える言い回しとなっているので、オールマイティーに使えそうではありますが、注意点もいくつかあります。

詳細の連絡が前提

「取り急ぎ」は、急ぐことを優先して、今できる範囲のことを「お知らせする」「ご報告する」ということになります。したがって、第一報のみでは不十分なケースが往々にしてあるでしょう。上司や目上の方や先輩に対しては、後日、しっかりとした内容で連絡し直すのがよいかと思います。

\次のページで「失礼と思われるケースも」を解説!/

失礼と思われるケースも

また、受け手の中には、「取り急ぎ」では不愉快に思われる方もおられるでしょう。お付き合いがそれほど親密ではない間柄であれば、「間に合わせとは失礼な」との印象を与えてしまうかもしれません。このようなケースでは、使用を避けたほうがよいでしょう。

言い換え表現

「取り急ぎ」を置き換えるとすると、どのような言葉が適切でしょうか。

まずは(先ずは)」「至急」「早急」という表現を使用することができます。「まずは」は「最初に、真っ先に、いちはやく」という意味。「至急」「早急」はともに「非常に急ぐこと」を指します。いずれも、かしこまった堅い文章の中で、使用が可能です。

たとえば、手紙やメールの文末において以下のように使用することができます。

「まずはご報告申し上げます」

「まずは書面にて失礼いたします」

「まずはご確認ください」

「至急(早急に)ご連絡いたしました」

「至急(早急に)お送りいたします」

シーンを考えて適切な使い方を

以上、手紙の文章やビジネスメールで使用する「取り急ぎ」という言葉の意味と使い方について、解説してきました。

「取り急ぎ」は「何よりも急いで」を意味し、「急いで用件を伝えたいとき」などに使用することができる表現です。

ただし、相手によっては失礼な印象を与えてしまう可能性があるため、用件を優先的に伝えたい場合には、ケース・バイ・ケースで「まずは」「至急」「早急」などの言葉を用いるようにするとよいかと思います。

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言葉の意味

「取り急ぎ」をビジネスメールや手紙の文末で使用する場合の意味と使い方。新聞記者歴29年の筆者がわかりやすく解説!

手紙の文章やビジネスメールでは、「取り急ぎご報告まで」といったフレーズがよく使われます。実際に使った経験があるという方もおられるでしょう。しかし、上司や目上の方に「取り急ぎ」と使って、失礼な表現には当たらないのか、疑問に思うことはありませんか?今回の記事では、手紙の文章やビジネスメールで使用する「取り急ぎ」という言葉の意味と使い方を、新聞記者歴29年の筆者が詳しく解説します。

「取り急ぎ」とは

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「取り急ぎ」は、日常的にビジネスメールの結びの部分などでよく使われている言葉ですが、本来はどのようなことを指すのでしょうか?まずは意味から解説していきます。

「とりあえず急ぐ」の省略形とする説もありますが、そのような省略語であればなおさら、かしこまった手紙の結びや、目上の方へのメールに使うというのはどうなのでしょう。

しかし一方、実際には幅広い場面で用いられており、必ずしも控えるべき語と片付けるわけにもいかないようです。

「とり」と「急ぐ」

現代の言葉では「取り急ぐ」で一つの動詞とされていますが、本来は接頭辞の「とり」と動詞「急ぐ」が一体化した複合動詞だと思われます。

「急ぐ」はもちろん、「普通よりも時間をかけずに行動をする(始める)こと」です。では「とり」にはどんな意味があるのでしょう。

接頭辞の「とり」は2通りに分類されると言われています。

1.「取り」の動詞としての意味を残したもの:「取り出す」「取り去る」「取り上げる」など。

2.「取り」の動詞としての意味がない(薄い)もの:「取り囲む」「取り乱す」「取り仕切る」など。

「取り急ぐ」は後者ですね。

「取り急ぎ」の意味

以上を踏まえて、「取り急ぎ」の意味を解釈してみましょう。接頭辞の「とり」の役目は、語勢を強めるとともにニュアンスを追加することです。「取り急ぎ」の場合は、単に「急ぎ」と言うときよりも、「さらに急いで、何よりも先に」といったニュアンスが加わります。

こうした「取り急ぎ」を手紙やビジネスメールで使う場合には、さらに一歩踏み込んだニュアンスがプラスされるでしょう。「準備は万端ではないけれども、急いで~することを第一義として考えて」ということの表現となります。

「取り急ぎ」の使い方・例文

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では、具体的にどのような形で使われるのかを紹介していきます。

多くは「緊急を要する、差し迫った用件がある」「急ぎの連絡事項を伝える」などの場合に使われますが、「特別急ぎではないが何となく収まりがよいので」という場合もあるようです。

たとえばメール・手紙の文末において、以下のように用いることができます。

例文:

「取り急ぎ、ご案内申し上げます」

「取り急ぎご報告いたします」

「取り急ぎご通知申し上げます」

「取り急ぎご返事申し上げます」

「取り急ぎ○○ということをお知らせいたします」

「取り急ぎごお願い申し上げます」

「取り急ぎご報告まで」

一般的な「取り急ぎ」の使われ方

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ちなみに、一般的には「取り急ぎ」がどのような使われ方をしているのか、見てみましょう。

統一地方選挙の際、当確発表直後の議員ブログに「取り急ぎご報告まで」とありました。最終的な開票結果が出る前の段階ですから、「取り急ぎ」の意味としては問題ありませんし、支持者・支援者には後日正式に報告するのでしょう。

また、あるニュースに「取り急ぎ被害届を提出する」とありました。「とりあえず急いで」では、十分な内容の被害届は用意できません。ですから「大変急いで」という意味で使われているようです。

使う時の注意

例文では非常に丁寧な印象を与える言い回しとなっているので、オールマイティーに使えそうではありますが、注意点もいくつかあります。

詳細の連絡が前提

「取り急ぎ」は、急ぐことを優先して、今できる範囲のことを「お知らせする」「ご報告する」ということになります。したがって、第一報のみでは不十分なケースが往々にしてあるでしょう。上司や目上の方や先輩に対しては、後日、しっかりとした内容で連絡し直すのがよいかと思います。

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